ID番号 | : | 09539 |
事件名 | : | 地位確認等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 学校法人羽衣学園(羽衣国際大学)事件 |
争点 | : | 雇止めに係る大学教員任期法の適用の有無 |
事案概要 | : | (1)私立大学を設置する学校法人である被控訴人は、契約期間を平成25年4月1日から3年間とする労働契約(以下「本件労働契約」という。本件労働契約はその後更新され平成31年3月31日までの契約期間となった)を締結して同大学の専任教員を務めていた控訴人に対し、本件労働契約を更新せず、平成31年3月31日をもって契約期間満了による雇止めをした。 控訴人は、〈1〉複数ある有期労働契約の通算契約期間が5年を超えており、控訴人が労働契約法18条1項に基づく期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)の締結の申込み(以下「無期転換申込み」という。)をしたことにより、被控訴人との間に無期労働契約が締結された、〈2〉仮に、無期転換申込みによる無期労働契約の成立が認められないとしても、控訴人には有期労働契約の更新を期待するにつき合理的な理由があり、また、雇止めは客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないとして、労働契約法19条により、有期雇用契約が継続している、〈3〉控訴人と被控訴人との間で、有期労働契約の期間満了後に、無期労働契約を締結する旨の合意が成立した旨主張し、被控訴人に対して、控訴人が労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約に基づき、賃金等の支払を求め、さらに、雇止めをして労働契約終了の扱いをした被控訴人の対応が不法行為に当たる旨主張して、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料100万円の支払を求めるものである。 これに対し、被控訴人は、〈1〉控訴人につき、労働契約法18条1項の特例である大学の教員等の任期に関する法律(以下「大学教員任期法」という。)7条1項が適用される結果、無期転換申込みに係る権利(以下「無期転換権」という。)の発生までの通算契約期間は10年を超えることを要することとなるから、控訴人には未だ無期転換権が発生しておらず、〈2〉控訴人につき労働契約法19条の要件は充足されていない、〈3〉有期労働契約の期間満了後に、無期労働契約を締結する旨の合意は成立していない、〈4〉被控訴人の対応に違法な点はない旨主張して争うものである。 (2)一審判決は、本件労働契約に10年特例を含む大学教員任期法が適用され、控訴人主張に係る本件無期転換申込みによる始期付無期労働契約の成立は認められないなどとして、控訴人の請求をいずれも棄却したため、これを不服として控訴人が控訴を提起した。 (3)高裁判決は、原判決を変更し、本件労働契約に10年特例の適用があるということはできないとし、本件雇止めの時点において本件労働契約は既に無期雇用契約に転換していたことになるとし、賃金等の支払を認容した。 |
参照法条 | : | 民法709条 労働契約法18条 大学の教員等の任期に関する法律4条 大学の教員等の任期に関する法律5条 大学の教員等の任期に関する法律7条 |
体系項目 | : | 解雇 (民事)/ 短期労働契約の更新拒否 (雇止め) |
裁判年月日 | : | 令和5年1月18日 |
裁判所名 | : | 大阪高裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和4年(ネ)546号 |
裁判結果 | : | 原判決変更、控訴一部棄却 |
出典 | : | 判例時報2590号94頁 労働判例1285号18頁 労働経済判例速報2510号3頁 労働法律旬報2027号65頁 D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | 上告、上告受理申立て |
評釈論文 | : | 本久洋一・労働法律旬報2027号43~44頁2023年3月10日 西川翔大・季刊労働者の権利350号101~106頁2023年4月 水町勇一郎・ジュリスト1582号4~5頁2023年4月 延増拓郎・労働経済判例速報2510号2頁2023年5月10日 牟礼大介・労働判例1285号99~100頁2023年6月15日 香川孝三(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1591号138~141頁2023年12月 山本圭子・季刊教育法221号118~125頁2024年6月 |
判決理由 | : | 〔解雇 (民事)/ 短期労働契約の更新拒否 (雇止め)〕 (1) 大学教員任期法4条1項1号は、「先端的、学際的又は総合的な教育研究であること」を挙げているが、文理上、これは例示であり、いずれにしても当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性にかんがみ、多様な人材の確保が特に求められる教育研究の職であることが必要である(流動型)。そして、大学教員任期法4条1項が、私立大学については、任期を定めることが合理的な類型であることを明確にする趣旨で立法され、その後、労働契約法18条1項所定の通算契約期間を伸張するための要件とされていることを考慮すると、上記の教育研究の職に該当すると評価すべきことが、例示されている「先端的、学際的又は総合的な教育研究であること」を示す事実と同様に、具体的事実によって根拠付けられていると客観的に判断し得ることを要すると解すべきである。 (2) 控訴人が担当していた授業の大半は、介護福祉士養成課程のカリキュラムに属するものであり、その内容は、介護福祉士としての基本的な知識や技術を教授し、実際の福祉施設における介護実習に向けた指導を行い、また、国家試験の受験対策をさせるものであった。 これらの授業内容に照らすと、本件講師職について、実社会における経験を生かした実践的な教育という側面は存在するものの、それは、飽くまでも介護福祉士の養成という目的のためのものであり、介護分野以外の広範囲の学問分野に関する知識経験が必要とはされていない。また、国家試験の受験対策においては、研究という側面は乏しい。 以上によれば、本件講師職の募集経緯や職務内容に照らすと、実社会における経験を生かした実践的な教育研究等を推進するため、絶えず大学以外から人材を確保する必要があるなどということはできず、また、「研究」という側面は乏しく、多様な人材の確保が特に求められる教育研究の職に該当するということはできない。 (3) 被控訴人の指摘する事実を考慮しても、本件講師職には研究者としての側面が乏しい。控訴人の担当授業の具体的内容によれば、研究そのものの遂行や研究成果に基づく教授という側面は乏しいから、同人がもっぱら教育業務に従事していたとの評価は左右されない。大学教員が執務のために与えられる部屋を「研究室」と称するか否かは、単なる名称の問題にすぎず、当該教員の従事する職務と直接の関係はない。また、任期制として、人の入れ替えを図ること(流動性を取り入れること)が合理的といえるほどの事情もなく、多様な人材の確保が特に必要と評価し得る面もない。 以上の検討によれば、本件労働契約に10年特例の適用があるということはできない。そして、これにより、本件雇止めの時点において本件労働契約は既に無期雇用契約に転換していたことになるから、争点2(本件労働契約の更新に関する期待に合理的な理由があるといえるか)及び争点3(被控訴人学園代表者の発言によって無期労働契約が成立したといえるか)について判断するまでもなく、控訴人は被控訴人との間で労働契約上の地位を有する。 |