ID番号 | : | 09541 |
事件名 | : | 賃金等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | ふたば産業事件 |
争点 | : | 中国労働法・労働契約法適用の可否と契約解除の有効性 |
事案概要 | : | (1) 被告(ふたば産業株式会社)は、冷凍食品の輸入、販売等を目的とする株式会社であり、中国国内に現地法人や常駐代表機構(駐在員事務所に相当するもの)を有しない。原告は、中国山東省青島市(以下「青島市」という。)内に住所を有する外国人女性であり、通訳、経理、商品開発、価格交渉、契約書の作成、通関との折衝等を行う旨の契約(以下「本件契約」という。)を被告と締結していたが、被告から本件契約を解消する旨の措置(以下「本件措置」という。)を受けた。そのため、被告に対し、本件契約の成立及び効力について適用すべき法(以下「準拠法」という。)は中華人民共和国(以下「中国」という。)の法であり、本件契約は労働契約であって本件措置は違法な解雇であると主張して、中国労働契約法87条に基づく経済補償金支払請求等の主位的請求をし、本件契約が労働契約でないとしても本件措置は無効な契約解除であると主張して、令和元年6月分以降の報酬減額は違法である旨等を主張して、債務不履行(中国の契約法に基づくもの。以下同じ。)に基づく損害賠償請求の予備的請求をする事案である。 なお、本件では、本件契約が「法の適用に関する通則法」(以下「通則法」という。)12条所定の労働契約に該当し、同条3項所定の「当該労働契約において労務を提供すべき地の法」が中国法と推定されることにより、本件契約の準拠法が中国の法となることについて、当事者間に争いはない。 (2)判決は、原告の請求は、いずれも理由がないとして棄却した。 |
参照法条 | : | 法の適用に関する通則法12条 労働基準法9条 労働契約法2条1項 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則 (民事) /適用事業/ (2) 適用事業の範囲 |
裁判年月日 | : | 令和5年1月26日 |
裁判所名 | : | 大阪地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和3年(ワ)30034号 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例1304号18頁 |
審級関係 | : | 確定 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則 (民事) /適用事業/ (2) 適用事業の範囲〕 (1)中国の労働法2条1項は、同法の適用対象となる使用者を「中華人民共和国国内の企業及び個人経済組織」と定め(関係法令の定め等イ)、労働契約法2条1項は、労働契約の一方当事者である使用者を「中華人民共和国内の企業、個人経済組織、民弁非企業単位等の組織」と定めている(同ウ(ア))。以上によれば、中国の労働法及び労働契約法上の使用者は中国企業であり、わが国の企業をはじめとする外国企業は含まれないと解されるところ、これに沿う中国の裁判例がある。 したがって、中国の労働法及び労働契約法上の使用者に外国企業は含まれず、その余の点を考慮しても、被告は中国の労働法及び労働契約法上の使用者には当たらない。 (2) 原告は、国際私法における法律関係の性質決定において、本件契約が通則法12条所定の労働契約とされた以上、その当然の帰結として、中国の労働法、労働契約法が適用されるし、このような解釈は労働者の抵触法上の保護を図るという同条の趣旨に沿う旨主張する。 しかし、通則法12条は、労働契約の成立及び効力に係る準拠法の選択に係る定めであり、これによって適用される国の法令の解釈を左右するものではない。原告の上記主張は、同条の効果に係る理解を誤るものであり、採用することができない。 (3) 原告は、通則法12条1項に基づいて、本件契約の最密接関連地である中国法の特定の強行規定である中国の労働法及び労働契約法を適用すべき旨の意思表示した以上、同条に基づいて本件契約には中国の労働法及び労働契約法が適用される旨主張する。 しかし、同項は、「労働契約の成立及び効力について第7条又は第9条の規定による選択又は変更により適用すべき法が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法以外の法である場合であっても」と定めており、最密接関連地でない地の法が準拠法であることが前提であるところ、本件では、最密接関連地は中国であることに争いはなく、同項の要件を欠く。したがって、原告の上記主張は、前提となる要件を欠くから、採用することができない(なお、原告の上記主張を前提としても、上記(1)で説示したとおり、被告は中国の労働法及び労働契約法所定の使用者には当たらない。)。 (4) 原告は、日本の労働基準法9条、労働契約法2条1項は法廷地の絶対的強行法規であるから本件契約にも適用される結果、原告は労働者として扱われることによって、中国の労働関係法令が適用される旨主張する。 しかし、日本の労働基準法9条、労働契約法2条1項の「労働者」に原告が該当したとしても、適用されるのは上記各法律であって、これをもって中国の労働法や労働契約法の「労働者」に原告が、「使用者」に被告が該当するとはいえない。したがって、原告の上記主張は、前提に誤りがあるから、採用することができない。 (5) 中国の契約法396条は、委任契約とは、委任者と受任者が契約に従って、受任者が委任者の事務を処理する契約をいう旨を定めているところ、本件契約における原告の業務は、通訳、経理、商品開発、価格交渉、契約書の作成、通関との折衝等であり、これは委任者である被告の事務処理を行うものといえる。したがって、本件契約は中国の契約法上の委任契約である。 本件契約は委任契約であるから、本件措置による本件契約の解消は、当事者が随時委任契約を解除することができる旨を定めた中国の契約法410条に基づく有効な委任契約の解除である。 本件措置による本件契約の解消は中国の契約法410条に基づく有効な委任契約の解除である。したがって、本件措置が無効であることを前提に、被告が本件契約に基づく義務を履行しない旨の原告の債務不履行の主張には理由がない。 |