ID番号 | : | 09542 |
事件名 | : | 処分取消し請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 国・渋谷労基署長(カスタマーズディライト)事件 |
争点 | : | 給付基礎日額の算定方法 |
事案概要 | : | (1)本件は、株式会社カスタマーズディライト(以下「本件会社」という。)との間で期間の定めのない労働契約(以下「本件労働契約」という。)を締結し、平成24年9月1日から勤務を開始した原告が、平成28年7月1日から休職し、平成29年5月16日、渋谷労働基準監督署長(以下「本件処分庁」という。)に対し、本件会社における業務によりうつ病を発症したとして、平成28年9月5日から同年10月31日までの休業補償給付の支給を請求し、本件処分庁から平成29年12月14日付けで労働者災害補償保険法14条1項に基づく休業補償給付を支給する旨の決定(以下「本件処分」という。)を受けたところ、原告は、本件処分には給付基礎日額の算定を誤った違法がある(具体的には、本件会社の原告に対する職務手当(18万円)の支払により、労基法37条の割増賃金が支払われたとはいえないとして、これを割増賃金の算定基礎となる通常の労働時間の賃金に算入すべき)と主張して、その取消しを求める事案である。 (2)判決は、職務手当の全額が労基法37条に基づく割増賃金として支払われたものとして給付基礎日額を算定した上で行われた本件処分は違法であり、取消しを免れないとして、原告の請求を認容した。 |
参照法条 | : | 労働基準法32条 労働基準法36条 労働基準法37条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/ (11) 給付基礎日額、平均賃金 |
裁判年月日 | : | 令和5年1月26日 |
裁判所名 | : | 東京地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和3年(行ウ)555号 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働判例1307号5頁 労働経済判例速報2524号19頁 |
審級関係 | : | 確定 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/ (11) 給付基礎日額、平均賃金〕 (1)本件労働契約に係る契約書には、職務手当及び役職手当の全額を時間外・深夜・休日出勤割増分として支給する旨が記載されており、かつ、同契約締結時に施行されていた本件会社の就業規則において、時間外労働等に対してはあらかじめ設定した見込み割増賃金を支給すると定められていた(第48条)。 しかし、この基本給を1か月当たりの平均所定労働時間(173時間)で除して賃金単価を計算すると、それぞれ867円、925円、983円となる。これは、調理師として一定の職務経験を有する労働者として本件会社に雇用され、本社D事業部のマネージャーとして、調理業務のみならず、D各店舗の管理運営に関する業務等も担当してきた原告の地位及び職責に照らし、不自然なまでに低額であると言わざるを得ない(なお、この間の東京都における最低賃金は、平成25年10月19日から869円、平成26年10月1日から888円、平成27年10月1日から907円と推移している(公知)。)。 (2)本件労働契約に係る契約書や本件会社の就業規則の記載を踏まえても、原告の本件会社における地位及び職責に照らし、通常の労働時間に対応する賃金が基本給の限りであったと認めるには無理があること、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強いと評価される80時間を大幅に超える1か月当たり150時間前後の法定時間外労働を前提とする職務手当を支給することは当事者の通常の意思に反することを総合考慮すると、本件会社から支払われた職務手当には、その手当の名称が推認させるとおり、通常の労働時間も含め、原告のD事業部マネージャーとしての職責に対応する業務への対価としての性質を有する部分が一定程度は存在したと認めるのが相当である。 (3)以上で説示したところによれば、職務手当は、その全額が労基法37条に基づく割増賃金として支払われるものと認めることはできず、通常の労働時間の賃金として支払われる部分が含まれると認められる。 (4)本件労働契約に係る契約書においても、本件会社の就業規則においても、職務手当に含まれる労基法37条に基づく割増賃金に対応する時間外労働等の時間数は記載されておらず、その他本件全証拠に照らしても、本件労働契約において、職務手当における通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することはできないものといわざるを得ない。 したがって、職務手当の支払をもって、本件会社が原告に対し労基法37条に基づく割増賃金として支払ったとする前提を欠くことになるから、結局のところ、職務手当の全額を通常の労働時間の賃金に当たるものとして給付基礎日額を算定するよりほかないというべきである。 |