ID番号 | : | 09545 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 長崎大学事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | (1)本件は、被告(国立大学法人長崎大学)との間で有期労働契約を締結し、平成23年3月1日から平成31年2月28日までの間、被告医学部において、教育職員(助教)として、「医学英語」及び医学科、保健学科の英語の授業を担当していた原告に対し、「英語学習プログラムをeラーニングに替えるので、あなたの契約は更新されず、来年(平成31年)2月28日が最後の就労日になる。あなたはとてもいい仕事をしていると聞いていたので、とても残念です。」などと告げ、平成31年3月1日以降、本件労働契約を更新しない旨(以下「本件雇止め」という。)を通知した。このため、原告は、被告に対し、〈1〉契約期間が満了した平成29年3月1日以降引き続き労働に従事したことから、民法629条1項前段により期間の定めのない労働契約として法定更新された、〈2〉上記法定更新により3年間の有期労働契約として法定更新されたとしても、令和2年3月1日からの期間の定めのない労働契約締結の申込みをしたから、労働契約法(以下「労契法」という。)18条1項により期間の定めのない労働契約へ転換された、〈3〉上記労働契約につき2年間の有期労働契約として更新の合意がされたとしても、同法19条2号により平成31年3月1日から2年間の有期労働契約として更新され、その後、令和3年3月1日からの期間の定めのない労働契約締結の申込みをしたから、同法18条1項により期間の定めのない労働契約へ転換されたなどと主張して、期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び未払賃金等の請求をする事案である。 (2)判決は、原告の令和3年3月1日からの無期労働契約への転換と賃金の支払等を認容した。 |
参照法条 | : | 民法629条1項前段 労働契約法18条 労働契約法19条 |
体系項目 | : | 解雇 (民事)/ 14 短期労働契約の更新拒否 (雇止め) |
裁判年月日 | : | 令和5年1月30日 |
裁判所名 | : | 長崎地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和1年(ワ)393号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労働法律旬報2036号46頁 裁判所ウェブサイト掲載判例 D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | 控訴(後、和解) |
評釈論文 | : | 中川拓・季刊労働者の権利350号127~133頁2023年4月 |
判決理由 | : | 〔解雇 (民事)/ 14 短期労働契約の更新拒否 (雇止め)〕 (1)被告は、原告に対し、平成29年2月28日までの間に、雇用期間を平成29年3月1日から平成31年2月28日まで2年間として更新する旨を記載した労働条件通知書等を交付したことが認められる(2回目の更新)。また、被告は、原告に対し、事前に雇用契約更新の意向確認をしていたことが認められる。 以上によれば、2回目更新に関する労働条件通知書等の交付を受けたことにより、その頃、2回目更新合意が成立したと認められる。 原告は、2回目更新合意は、労契法18条1項を潜脱し、同項の趣旨に反し無効である旨主張する。しかし、同条項は、有期労働契約の通算契約期間が5年を超える労働者について、無期転換権を付与することとしたにとどまり、これに満たない労働者について、無期転換権の行使が可能となるまで有期労働契約を更新することを規定するものではなく、そのような労働者の期待を保護する趣旨であるということもできないから、2回目更新契約の期間を2年間としたことをもって、2回目更新合意が無効となるということはできず、原告の主張は採用できない。 (2)原告の業務には常用性があると認められ、本件労働契約締結の経緯から、その業務が、一定程度、長期、継続的なものとなることが想定され、更新の際に、原告に認識し得る方式では更新の可否について実質的な審査等がされず、形式的な手続で2回の更新がされ、契約期間が通算8年間に及んでいたことからすれば、原告が、2回目更新合意による契約期間の満了後も、引き続き本件労働契約が更新されるものと期待したことについて、合理性があると認められる。 なお、原告が、「医学英語」を中心とする英語教育担当教員として採用され、eラーニング導入により、その必要性が薄れたことは、被告が、原告に対し、本件雇止めまで、eラーニング導入による本件労働契約への影響について説明しておらず、原告がこれを認識し得なかったと認められることから、上記合理的期待の有無及び程度に影響しない。 (3)原告は、本件労働契約の継続につき合理的期待を有していたといえ、更新又は遅滞なく契約締結の申込みをしたところ、被告が本件雇止めをし、上記申込みを拒絶したことは、医学英語教育担当という雇用目的及びその後のeラーニング導入を中心とする医学英語教育方針の変更に伴い、外国人専任教員1名分の業務量を削減したことについては一定の合理性があるといえるものの、原告が採用時の方針に即した医学英語教育担当能力を有していたにもかかわらず、上記方針変更やこれに伴う本件労働契約への影響について事前に説明せず、対応を検討する機会を設けないまま、必要な業務量削減の範囲を超えて担当から外して、雇用契約を終了させたものであるから、合理性を欠くものといえ、さらに、事前の説明のないまま、同種職種の就職先を探すために十分とはいえない時期に本件雇止めをし、他の配属先を探すために誠実に対応することもしなかったのであるから、社会通念上、相当性を欠くというべきである。 以上によれば、本件労働契約は、労契法19条2号により平成31年3月1日から2年間の3回目更新がされたと認められる。そして、原告は、被告に対し、令和2年9月24日、本件第1回弁論準備手続期日において、本件労働契約につき、令和3年3月1日からの期間の定めのない労働契約締結の申込みをし無期転換権を行使したから、本件労働契約は、同法18条1項により、令和3年3月1日から期間の定めのない労働契約に転換されたと認められる。 |