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ID番号 09547
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 社会福祉法人紫雲会事件
争点 有期契約労働者にかかる均衡待遇
事案概要 (1)本件は、障害者支援施設を経営する社会福祉法人紫雲会(以下「被告」という。)を定年退職した後に、期間の定めのある労働契約(いわゆる有期労働契約)を被告と締結して支援員として就労してきた原告が、〈1〉平成29年12月分から令和2年12月分までの期末手当及び勤勉手当(以下、併せて「期末・勤勉手当」ということがある。)の不支給、〈2〉平成29年10月分から平成30年9月分までの扶養手当の不支給、〈3〉平成30年から令和2年までの年末年始休暇及び夏期休暇の付与がないことにつき、それぞれ改正前の労働契約法(以下「労契法」という。)20条違反の不法行為に当たり、〈4〉令和3年6月分の期末・勤勉手当の不支給につき、主位的には短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パート有期法」という。)9条違反の、予備的には同法8条違反の不法行為に当たると主張して、期末・勤勉手当、扶養手当及び年末年始休暇及び夏期休暇に関する損害賠償をそれぞれ求める事案である。
(2)判決は、年末年始休暇及び夏期休暇の付与がないことに係る不法行為に基づく損害賠償を認容し、それ以外の請求を棄却した。
参照法条 改正前労働契約法20
パート有期法8条
パート有期法9条
体系項目 労基法の基本原則 (民事) /7 男女同一賃金、同一労働同一賃金
裁判年月日 令和5年2月8日
裁判所名 宇都宮地裁
裁判形式 判決
事件番号 令和3年(ワ)292号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1298号5頁
審級関係 控訴
評釈論文 古賀友晴(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1598号147~150頁2024年6月
判決理由 〔労基法の基本原則 (民事) /7 男女同一賃金、同一労働同一賃金〕
(1)令和2年12月までの期末・勤勉手当の不支給に係る労契法20条違反の不法行為に基づく請求について
 労契法20条の「期間の定めがあることにより」とは、労働契約の期間の定めに関連して生じたものであれば足りるというべきであるところ、被告における正規職員と嘱託職員との手当の支給に係る相違は、正規職員に適用される就業規則及び給与規程中の定めと、嘱託職員に適用される臨時職員就業規則及び給与規程中の定めとの違いにより生じるものであるから、当該相違は期間の定めに関連して生じたものということができる。
 嘱託職員と正規職員との職務内容及び変更範囲につき、その中核的部分が本質的に異ならないことを踏まえても、被告が、定年制を前提とする正規職員の長期雇用と年功的処遇の賃金体系・退職金制度を維持しつつ、定年後に再雇用された嘱託職員について、定年退職時より賃金条件を引き下げるものの、最も高い基本給であった定年退職時を基準としてその8割の基本給(中堅時代の基本給とほぼ同等)とする制度設計をし、正規職員に対して期末・勤勉手当を支給する一方で、嘱託職員に対してこれを支給しないことは、不合理であると評価することができるものとはいえない。
 よって、嘱託職員である原告に期末・勤勉手当を支給しないことは労契法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。
 そうすると、その余の点について判断するまでもなく、令和2年12月までの期末・勤勉手当の不支給に関する原告の請求は、理由がない。
(2) 令和3年6月の期末・勤勉手当の不支給に係る不法行為に基づく請求について
 定年後再雇用の有期契約労働者についても、パート有期法にいう「有期雇用労働者」として同法の適用を受けるものというべきであるが、同法9条には、労契法20条にはない「短時間・有期雇用労働者であることを理由として」との要件が明記されている。したがって、パート有期法9条違反と認められるためには、処遇の相違が期間の定めに関連して生じたものであるというだけでは足りず、処遇の相違が有期労働契約であることを理由としたものであることを要するものというべきである。
 この点、被告の臨時職員就業規則においては、定年後再雇用の嘱託職員とそれ以外の臨時職員とで、期末・勤勉手当につき特段異なる定めがされているものではないものの、嘱託職員とそれ以外の臨時職員とで異なる処遇とすることを許容し得る定めになっている。そして、定年後再雇用の嘱託職員と正規職員との期末・勤勉手当に係る処遇の相違の理由は、定年前に正規職員として長期雇用と年功的処遇を前提とした賃金の支給を受けたことや退職金の支給を受けたことなど、嘱託職員以外の臨時職員にはない事情を考慮したものといわざるを得ない。また、原告の再雇用に際しては、労働組合との団体交渉を経て、嘱託職員としての労働契約が定められている。
 そうすると、嘱託職員である原告について、正規職員と異なり、期末・勤勉手当の支給がされない扱いとされていることは、原告が定年後再雇用の嘱託職員であることを理由としたものであって、有期雇用労働者であることを理由とした差別的取扱いに該当するものとは認められない。
 よって、令和3年6月の期末・勤勉手当の不支給がパート有期法9条に違反するものと認めることはできない。
(3) 扶養手当の不支給に係る労契法20条違反の不法行為に基づく請求について
扶養手当は、労働者に対する福利厚生ないし生活保障の趣旨で支給され、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じ、継続的な雇用を確保する目的を有するものということができる。そして、被告の無期契約労働者たる正規職員には幅広い世代の労働者が存在し得るところ、上記の福利厚生等の趣旨に照らすと、扶養親族の有無という労働者の属性に着目した手当につき、正規職員と嘱託職員との間で支給の有無を区別することは、使用者の雇用に関する経営判断として許されないものとまではいい難い。
 また、確かに、有期契約労働者たる嘱託職員であっても扶養親族がいればその費用を支出する必要性自体に正規職員との違いがあるわけではないものの、嘱託職員は定年退職後の高年齢者であり、正規職員として長年にわたり年功序列型の賃金体系による処遇を受けてきたものであるとともに、定年退職時には退職金が支給され、老齢厚生年金の支給を受けることが予定されている。
 これらの事情を総合考慮すると、嘱託職員と正社職員との職務内容及び変更範囲につき、その中核的部分が本質的に異ならないことを踏まえても、正規職員に対して扶養手当を支給する一方で、嘱託職員に対してはこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理であると評価することができるものとまではいえないというべきである。
 したがって、扶養手当の不支給は労契法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。
(4) 年末年始休暇及び夏期休暇の付与がないことに係る労契法20条違反の不法行為に基づく請求について
 被告は、就業規則の定めにもかかわらず、嘱託職員に年末年始休暇を付与せず、また、就業規則によれば、嘱託職員には特別休暇としての夏期休暇を請求することができるものとはされておらず、いずれも休暇を取得する場合には有給休暇とされており、これらの処遇につき正規職員と相違があるところ、この相違は、労働契約の期間の定めに関連して生じたものということができるから、嘱託職員たる原告に対し年末年始休暇及び夏期休暇を付与しないことが、職務内容及び変更範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められる場合に当たるか否かにつき検討する。
 年末年始休暇及び夏期休暇は、所定休日や年次有給休暇とは別に、労働から離れる機会を与えることにより、労働者が心身の回復を図る目的とともに、年越し行事や祖先を祀るお盆の行事等に合わせて帰省するなどの国民的な習慣や意識などを背景に、多くの労働者が休日として過ごす時期であることを考慮して付与されるものであると解される。
 このような休暇の趣旨は、正規職員にも嘱託職員にも等しく当てはまるものであることからすると、嘱託職員に対しその時期や日数を問わず一切付与しないことは、不合理というべきである。よって、有期契約労働者である嘱託職員に対し年末年始休暇及び夏期休暇を付与しないことは、労契法20条にいう不合理と認められるものに当たるというべきであるから、同条に違反し、不法行為が成立する。