ID番号 | : | 09549 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | ティ・オーオー事件 |
争点 | : | 配転命令拒否の懲戒解雇の有効性 |
事案概要 | : | (1)本件は、被告(ティ・オーオー株式会社)と雇用契約(以下「本件雇用契約」という。)を締結し警備員としてC大学において警備員として勤務していた原告が、被告から令和3年4月5日付けでアオイスタジオの警備業務に配転される旨の通知を受けた(本件配転命令)たが、原告は、〈1〉勤務終了時刻が遅く自宅の最寄り駅からバスが運行していないため帰れないこと、〈2〉労働時間が短いことを理由に本件配転命令を拒否するとして、本件配転命令後一度も勤務をしなかったため、同年5月7日付けで懲戒解雇(以下「本件解雇」という。)されたことに関し、本件配転命令及び本件解雇がいずれも無効である旨主張して、被告に対し、〈1〉雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、〈2〉本件雇用契約に基づき本件配転命令以降(令和3年4月1日から本判決確定の日まで)の賃金、〈3〉本件雇用契約に基づき業績一時金1万8000円(令和3年9月から本判決確定の日まで毎年7月及び12月)等の支払をそれぞれ求めた事案である。 (2)判決は、本件配転命令及び本件解雇は有効であるとして、原告の請求を棄却した。 |
参照法条 | : | 労働契約法16条 労働基準法26条 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣/ 3 配転命令権の濫用 |
裁判年月日 | : | 令和5年2月16日 |
裁判所名 | : | 東京地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和3年(ワ)23634号 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣/ 3 配転命令権の濫用〕 (1)業務上の必要性について 本件配転命令のきっかけは、被告とC大学との契約がC大学の都合で令和3年3月31日をもって解約されたことであると認められる。そのきっかけについては、被告が意図的に作出したものとはいえず原告の雇用維持のために配転命令を出すことはやむを得ないといえるし、原告の利益にも適うものであるから本件配転命令の業務上の必要性は高いということができる。アオイスタジオという配転先の決定については、被告が当時東京都内及び原告の自宅がある神奈川県内において受託していた件数及び定員もさほど多くないこと、被告は、原告の住所地に近い現場の空き状況などを確認したものの欠員がなく、原告が従前東京都H区I所在のBビルにおいて勤務しかつて都内ビルを配転先として希望していたことを考慮してアオイスタジオに配転することに決めたこと、しかも、配転を希望した7名の従業員のうち原告を含む65歳未満の正社員3名を優先して配転先を決めたことが認められ、検討過程についても問題はないし、原告の不利益が少ないように配慮した上で決定したということができる。 したがって、本件配転命令については、C大学における業務の終了に伴う雇用維持といった高度の業務上の必要性があったということができる。 (2)不当な動機・目的について 被告は、本件配転命令の約2か月前に、原告に対し、BビルからC大学への異動を命じる旨の配転命令を出したことが認められ、本件配転命令は近接した時期に行われた2度目の配転命令であるといえる。しかしながら、本件配転命令に先立つBビルからC大学への配転命令についても、被告とBビルの所有者との間の委託契約が終了したことによるものであり、被告が意図的に作出したものとはいえないし、この時には、被告とC大学との間の委託契約が終了することは決まっていなかったことが認められるから、配転命令が連続したことについてもやむを得ないものということができる。また、アオイスタジオという本件配転命令における配転先については、被告において原告の不利益が少ないように配慮した上で決定していること、アオイスタジオの業務内容は座ってすることのできる受付業務でありキャンパス内の見回りで歩き回らなければならないC大学における業務よりも負担が少ないといえることに照らし、本件配転命令が近接した時期に行われた2度目の配転命令であることをもって、不当な動機・目的があるということはできない。 原告は、被告に対し、残業代支払に係る訴訟を提起し、被告から数百万円の解決金を受領していることが認められる。しかしながら、このことから直ちに本件配転命令が訴訟の意趣返しであるとまで認めることができないのは当然であり、被告が原告に対し報復を示唆したといった事情を認めるに足りる証拠はない。 (3)通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるかについて アオイスタジオの業務内容は座ってすることのできる受付業務であることが認められ、キャンパス内の見回りで歩き回らなければならないC大学における業務よりも負担が少ないといえる。なお、原告の賃金は時給制であり勤務地及び業務内容にかかわらず時給は固定されていたことが認められるから、業務内容が負担の軽い受付業務に変更されることに伴う賃金面での不利益もない。また、原告が被告に対し電話で指摘したアオイスタジオにおける勤務の問題点についても、原告の自宅は最寄り駅から十分徒歩で帰宅できる範囲でありバスがない時間に最寄り駅に着くことになっても問題ないこと、労働時間については1週間当たり約36時間を確保しており労基法の上限に近く特段少ないとはいえないことが認められるから、原告が本件配転命令によって大きな不利益を被るということもできない。 したがって、本件配転命令については、C大学における業務の終了に伴う高度の業務上の必要性があったということができることも併せ考慮すれば、原告が、本件配転命令によって通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負うということはできない。 (4)原告の懲戒解雇事由該当性について 雇用契約においては、出勤して労務を提供するということが最も基本的かつ重要な債務であるから、原告は重大な債務不履行をしたというべきであり、これにより、被告が代替要員の確保に奔走するなど迷惑を被ったことは当然であり、企業秩序を著しく害する行為であるといえる。その期間についても、勤務シフト上の労働日単位で見ても19日連続というように長期間であるし、原告は、被告から書面による警告を受けながらも、被告に対し、自宅待機にした上で休業手当を支払うように要求していたことなどから、本件解雇をせずとも、その後、欠勤を続けていた可能性が極めて高いというべきである。 したがって、原告は、少なくとも、就業規則43条2号(出勤常ならず改善の見込みのないとき)、7号(第16条から第21条まで、又は第36条、第37条、第53条の規定に違反した場合であって、その事案が重篤なとき)及び9号(その他前各項に準ずる程度の不都合な行為を行ったとき)の懲戒解雇事由に該当するといえる。また、本件解雇は、懲戒解雇として、客観的に合理的な理由を有するということができる。 原告は、本件配転命令を拒否し、正当な理由なく22日間、勤務シフト上の労働日としては19日間連続で欠勤しており、長期間にわたり重大な債務不履行をしたものといえる。また、被告は、本件解雇に先立ち、原告に対し、2度書面で出勤を命じるとともに従わない場合は処分する旨の警告をしており、手続的にも適正である。他方で、原告は、被告が本件配転命令を撤回したり配転先を再度検討したりする旨を一度も述べていないにもかかわらず、被告に対し、自宅待機にした上で休業手当を支払うように要求しており、働かずして支払を受けることを画策していたと思われるし、被告が新しい配転先を検討している間自宅待機になった旨通知書に虚偽の記載をするなど、自身の要求を押し通そうとする姿勢が顕著であり、情状面も悪い。原告は、本件解雇をされなくても、その後、欠勤を続けていた可能性が極めて高いというべきである。 したがって、本件解雇は、懲戒解雇として、社会通念上相当であると認められる。 |