ID番号 | : | 09554 |
事件名 | : | 未払賃金等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | させぼバス事件 |
争点 | : | バス乗務員の待機時間の労働時間性 |
事案概要 | : | (1)本件は、バス乗務員として路線バスを運行する株式会社であり、E市交通局の完全子会社であるさせぼバス株式会社(以下「被告」という。)に路線バスの乗務員として雇用されていた原告らが、被告に対し、〈1〉割増賃金の基礎賃金に、特殊勤務手当、休日勤務手当、夜間勤務手当が含まれていないこと、〈2〉①待機時間のうち、被告が休憩時間として取り扱っていた時間(以下「係争時間1」という。)②60分休憩及び貸切運転休憩のうち、休憩開始直後の5分間と休憩終了直前の5分間(以下「係争時間2」という。)、③運転表上(中休みが設定されているものを除く)、60分休憩の時間が60分以上ある場合の60分を超える時間(以下「係争時間3」という。)を労働時間に当たらないとして賃金を支払っていないことを理由に、時間外割増賃金の一部が未払であると主張して、未払割増賃金等並びに労働基準法(以下「労基法」という。)114条所定の付加金の支払を求めるとともに、被告には、13時間を超えて原告らを拘束しないようにシフトを構築する義務を怠った過失があると主張して、不法行為に基づき損害金の支払を求める事案である。 (2)判決は、請求の一部(特殊勤務手当が割増賃金の基礎に含まれていないこと、係争時間1、2の一部労働時間について賃金を支払っていないこと、付加金の支払)を認容した。 |
参照法条 | : | 労働基準法32条 労働基準法37条 労働基準法114条 |
体系項目 | : | 賃金 (民事)/ 割増賃金/ (2) 割増賃金の算定基礎・各種手当 労働時間 (民事) /労働時間の概念/ (6) 手待時間・不活動時間 |
裁判年月日 | : | 令和4年3月23日 |
裁判所名 | : | 長崎地裁佐世保支部 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成29年(ワ)119号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1300号12頁 D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | 控訴 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金 (民事)/ 割増賃金/ (2) 割増賃金の算定基礎・各種手当〕 (1)特殊勤務手当、休日勤務手当、夜間勤務手当について 特殊勤務手当は、時間外、休日、夜間の割増賃金とは別に、中休勤務をした者に対し、労働時間の長短にかかわらず、1回の勤務につき一律240円で支給されるものであることが認められる。したがって、特殊勤務手当は、労基法37条所定の割増賃金と同じ性質を持たないものであり、かつ同条5項及び同法規則21条所定の除外賃金にも該当しないから、基礎賃金に含まれる。 休日勤務手当は、正規の勤務時間(運転表によるシフト)が休日の場合に、労働時間数に応じて、勤務1時間当たりの基本給の額に100分の135を乗じて得た金額を支払うものであるから、割増賃金としての性質を有しており、基礎賃金に含まれない。 夜間勤務手当は、正規の勤務時間が午後10時から翌日午前5時までの間である場合に、労働時間数に応じて、1時間当たりの基本給の額に100分の25を乗じて得た金額を支払うものであるから、割増賃金としての性質を有しており、基礎賃金に含まれない。 〔労働時間 (民事) /労働時間の概念/ (6) 手待時間・不活動時間〕 (2) 係争時間1について ①始発バス停で待機する折り返し待機場所について 被告は、バスの乗務員に対し、待機時間であっても、乗客をバスに乗せたり、乗客からの積み増し依頼があれば対応したりするよう指示しており、原告らは、乗客が来た場合はもちろん、乗客が来なかった場合であっても乗客が来た場合に備えて、バスの中やその付近で待機しなければならなかったこと、折り返し待機場所によって程度は異なるものの、統計上の平均値でみると、多い場所で毎回、少ない場所でも10回のうち1回以上の割合で乗客対応に従事する必要があったことが認められるところ、係る事実関係に照らせば、原告らは、待機時間中に労働からの解放が保障されていなかったものと認められる。 そして、折り返し待機場所は、始発のバス停で待機する場所であると認められるから、これらの待機場所における待機時間は、実際に乗客対応をしたか否かにかかわらず全て労働時間である。 ② 始発バス停と待機場所が離れている折り返し待機場所について 始発バス停と待機場所が異なる折り返し待機場所における係争時間1については、一般車両の通行や後続のバスとの調整等から必要に応じてバスを移動させなければならず、その対応に備えるためにバス付近で待機する必要があった等の事情がなければ、原告らは、労働からの解放を保障されていたということができる。 (3)係争時間2について ア 中休みがない場合は、終点のバス停において乗客を降車させた後、営業所の車庫にバスを移動させる。遺留品のチェックを行い、次の行先系統番号を入力し、表示を確認する。バスの窓を閉め、メインスイッチを切り、非常コックを開にしてから下車し、非常コックを閉める。遺留品がある場合は、事務所に持っていき、申請し、休憩に入る。これらの作業には5分程度の時間がかかる。 原告らは、60分休憩開始直後の5分間及び60分休憩終了直前の5分間について業務に従事していたから、60分休憩のうち合計10分間は、労働時間であると認められる。 イ 中休みがある場合は、終点のバス停において乗客を降車させた後、バスに燃料を入れる。その後、バスを駐車場所に移動させ、バスの傷や遺留品の点検、乗務記録の記入、金庫の清算収納等を行い、中休み後に乗車するバスが異なる場合は、車内名札、制帽、マイクを保管する。運転管理者の点呼を受け(乗務記録と金庫等を渡す。)、運行中の異常の有無を申告する。これらの作業に10分程度の時間を要する。なお、被告は、60分休憩後に中休みが設定されている場合、5分間を労働時間として扱っている。なお、被告は、中休み後の開始業務については、12分間(点検10分、出庫調整2分)を労働時間として扱っている。 そうすると、中休みがある場合、60分休憩が終了する直前の17分間が少なくとも労働時間であるといえるから、調整時間である12分間を除いた5分間が、未払の労働時間であると認められる。 ウ 以上のことから、60分休憩のうち合計10分間は、労働時間である。 エ 貸切運転休憩の前後各5分間については、臨時の運行便については、前記60分休憩で検討したことが妥当するといえることから、合計10分間が労働時間であると認められるが、その他の貸切バス等にかかる運転業務については、60分休憩と同様の点検作業等が必要になるとは認められないから、労働時間とはいえない。 (4) 係争時間3について 原告らは、係争時間3について、各営業所に設置された休憩室において、食事をとったり、テレビをみたり、仮眠を取ったりしていた上、60分休憩が1時間30分程ある場合等には、営業所近くの食堂に行ったりしていたことが認められるから、係争時間3は、労働時間ではない(なお、係争時間2は、前記のとおり合計10分であり、超過部分はない。)。 (5)付加金について 原告らは、労基法114条に基づき、被告に対し付加金の支払を請求することができる。 (6)13時間超の拘束について 被告は、バスの運転業務について、1日三、四時間程度の中休みを設定しており、中休み中、原告らバスの乗務員は、営業所の休憩施設で仮眠をとったり、自宅に帰宅して自宅で休息をとったりすることが可能であったと認められること、別紙賃金計算表のとおり、原告らの1日の労働時間は、概ね13時間を超えていないことに照らして、被告によるシフトの構築が、不法行為であるとは評価できない。 |