ID番号 | : | 09556 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 中倉陸運事件 |
争点 | : | 精神障害の治療中であることを理由とする退職勧奨 |
事案概要 | : | (1)本件は、貨物自動車運送事業等を目的とする被告(中倉陸運株式会社)に、4トンウイング車乗務員として雇用され、令和2年8月1日から就労を開始した原告が、同月4日にうつ病による精神障害等級3級の認定を受けている旨の書類を提出したところ、即日解雇されたが、本件解雇は無効であるなどと主張して、被告に対し、〈1〉労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、〈2〉同月6日から本判決確定の日までの未払賃金及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求め、また、〈3〉障害者を差別した不当解雇、あるいは違法な退職勧奨を受けたとして、不法行為責任に基づき、慰謝料500万円等の支払を求めた事案である。 (2)退職勧奨行為は不法行為であるとして慰謝料80万円を認容し、本件労働契約は退職合意により終了したとしてその他の原告の請求を棄却した。 |
参照法条 | : | 民法709条 労働契約法16条 |
体系項目 | : | 退職/ 5 退職勧奨 |
裁判年月日 | : | 令和5年3月9日 |
裁判所名 | : | 京都地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和3年(ワ)606号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1297号124頁 |
審級関係 | : | 控訴 |
評釈論文 | : | 古賀修平・労働法律旬報2058号46~47頁2024年6月25日 |
判決理由 | : | 〔退職/ 5 退職勧奨〕 (1)原告は、令和2年8月4日、C所長を通じて被告から雇用を継続することは困難である旨告げられ、退職手続のため出社するよう求められてこれに応じ、同月6日には、被告B営業所に出社し、被告からの貸与品を返還し、同月4日までの賃金を受領した上、退職事由欄に「一身上」と記載するなどした本件退職届を作成して、これをC所長に提出したというのであるから、同月6日、原告と被告との間で退職合意が成立したと認めるのが相当である。 (2)原告は、以前にも、勤務していた会社を退職する際、退職届を提出したことが複数回あり、被告において就労を開始するに当たっても、勤務していた食品会社を退職する際、同様に退職届を提出したというのである。 そうすると、原告は、本件退職届を作成、提出した際にも、その意味するところを十分に理解していたというべきであるから、原告の本件退職届の作成、提出につき、心裡留保があるとか、これに対応する意思の欠缺があるということはできない。また、原告がいう動機の錯誤は、自身が令和2年8月4日に解雇されたと認識していたことを前提とするところ、上記のとおり、原告が同日解雇されたと認識していたとは認められないから、その点で錯誤があるということもできない。 (3)退職勧奨行為自体は、その具体的内容や態様、これに要した時間等からみて、執拗に迫って原告に退職の意思表示を余儀なくさせるような行為であったとまでいうことはできず、不法行為に該当し得るとしても、退職に関する原告の自由な意思決定を阻害するものであったとは認め難い。 そうすると、上記退職勧奨行為があったからといって、原被告間で退職合意に至ったことそのものが、公序良俗に反するということはできない。 (4)本件労働契約は退職合意により終了したものであるから、原告の解雇権濫用の主張及び賃金請求に関する主張は、採用することができない。 (5)被告は、原告から、二次面接時に過去5年間行政処分歴がない旨記載された令和2年4月10日付け運転記録証明書を受け、また、体験入社時や、同年8月1日、同月3日及び同月4日に勤務した際にも、その勤務状況等に特段の指摘や指導を受けるようなことはなかったにもかかわらず、同日、原告から「精神障害3級 交付日平成29年9月29日」との記載がある本件扶養控除等申告書の提出を受けたことを契機に、原告からうつ病で通院、服薬治療を受けていることを聴取したのみで、原告の健康状態や服薬が原告の担当業務に及ぼす影響について専門家である医師等の意見を聞くなどして、その業務遂行の可能性等について検討するようなこともないまま、雇用を継続することは難しい旨の意向を示したというのである。 上記一連の経緯に照らすと、被告は、原告が精神障害等級3級との認定を受け、通院して服薬治療を受けていることのみをもって、その病状の具体的内容、程度は勿論、主治医や産業医等専門家の知見を得るなどして医学的見地からの業務遂行に与える影響の検討を何ら加えることなく、退職勧奨に及んだものといわざるを得ない。 そうすると、被告の上記退職勧奨行為は、原告の自由な意思決定を阻害したものとまで評価できないにしても、障害者である原告に対して適切な配慮を欠き、原告の人格的利益を損なうものであって、不法行為を構成するというべきである。そして、被告の上記退職勧奨行為の内容のほか、本件記録に表れた諸事情を考慮すると、原告の精神的苦痛を慰謝するには80万円をもってするのが相当である。 |