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ID番号 09557
事件名 未払賃金等請求事件
いわゆる事件名 熊本総合運輸事件
争点 賃金総額から基本給等を控除した額を割増賃金とする給与体系の適法性
事案概要 (1)本件は、一般貨物自動車運送事業等を営む株式会社熊本総合運輸(以下「被告」という。)に運転手従業員として雇用されていた原告が、平成二七年一二月以降の割増賃金の基礎賃金は、宿泊日当(旅費)、残業手当、深夜割増手当、休日割増手当及び調整手当を含めた額として算定すべきであるなどとし、その就労期間中に時間外割増賃金の不払いがあった旨主張して、被告に対し、雇用契約に基づき、時間外割増賃金等及び労働基準法114条に基づく付加金等の支払を求める事案である。
なお、被告は、平成二七年一二月からデジタコを用いた時間管理に基づく時間外手当(残業手当、深夜割増手当及び休日割増手当)の支給を行い、それらの時間及び支給額を給与明細にも記載するようになったが、平成二七年就業規則の施行後も旧給与体系と同様に運行内容(出発、輸送、積込、帰庫)等に応じて賃金の総額を決定した後、その総額から定額の基本給と上記時間外手当(残業手当、深夜割増手当及び休日割増手当)を差し引き、残額を調整手当として従業員に支給していた。
(2)判決は、宿泊日当(旅費)、残業手当、深夜割増手当及び休日割増手当は割増賃金の基礎賃金に含まれないが、調整手当は割増賃金の基礎賃金に含まれるべきであるなどとして、割増賃金等とそれに対応した付加金等の支払を認容した。
参照法条 労働基準法 37条
体系項目 賃金 (民事)/ 割増賃金/ (2) 割増賃金の算定基礎・各種手当
裁判年月日 令和3年7月13日
裁判所名 熊本地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成30年(ワ)560号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1284号27頁
労働経済判例速報2516号11頁
労働法律旬報2032号54頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔賃金 (民事)/ 割増賃金/ (2) 割増賃金の算定基礎・各種手当〕
(1)宿泊日当は被告の福利厚生の一環として支払われる宿泊補助費(旅費)であって基礎賃金には含まれないと解するのが相当である。
(2)被告は平成二七年五月に労働基準監督署の指導を受けた後、デジタコにより適正に労働時間を管理した上で、平成二七年就業規則の定めに基づき残業手当、深夜割増手当及び休日割増手当を支払っていたものであり、これらが時間外労働手当としての明確区分性及び対価性を有することは明らかであり、基礎賃金には含まれないというべきである。
(3)被告は平成二七年就業規則の制定後も、運行内容(出発、輸送、積込、帰庫)等に応じて賃金の総額を決定した後、その総額から定額の基本給と時間外手当を差し引き、残額を調整手当として従業員に支給していたものであるから、被告において現実に支払われていた調整手当は、旧給与体系と同様に運行内容に応じた歩合給(出来高払い)に近い形で算定されており、時間外労働の時間数に応じて支給されていたものではないから、平成二七年就業規則が予定していた時間外手当として支払われたものとはいえず、時間外労働の対価としての明確区分性及び対価性を有しないから、調整手当は基礎賃金に含まれるというべきである。
 また、被告における調整手当は、運送業務の内容、運賃から被告代表者において算定しているとのことであり、このような従業員に算定根拠を説明できない手当は時間外労働の対価としての明確区分性及び対価性を欠くといわざるを得ず、有効な時間外労働賃金の支払として認められない。
(4)割増賃金の既払額に残業手当、深夜割増手当及び休日割増手当が該当するか検討する。被告は、残業手当、深夜割増手当及び休日割増手当について残業時間を計算した上で割増賃金として支払っており、時間外労働の対価としての明確区分性及び対価性に欠けることはないから、残業手当、深夜割増手当及び休日割増手当の既払分は割増賃金の既払額に該当すると解される。
(5)被告においては平成二七年就業規則施行後も時間外手当である調整手当について旧給与体系と同様に運行内容に応じた歩合給(出来高払い)に近い算定方法が採られていたという不備が存在したもので、労働基準法に違反する態様での賃金支払がされていた(なお、上記算定方法による被告の調整手当は固定残業代にすら当たらない。)ものであり、その違反の態様は看過することができない性質のものであるから、被告に対しては付加金の支払を命じることが相当である。