ID番号 | : | 09560 |
事件名 | : | 労働契約法20条違反による損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 日東電工事件 |
争点 | : | 有期労働契約を理由とする労働条件の相違の不合理性 |
事案概要 | : | (1)本件は、電気機器用品等の製造、加工及び販売等を目的とする日東電工株式会社(以下「被告」という。)と期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結して被告のG事業所で勤務していた日系ブラジル人らの労働者60名(以下「原告ら」という。)が、期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)を締結している労働者(以下「正社員」という。)と原告らとの間で、通勤手当、扶養手当、リフレッシュ休暇、賞与及び賃金、年次有給休暇(日数及び半日休暇の可否)、特別休暇及び福利厚生等に相違があったことは労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの。以下同じ。)に違反するものであったと主張し、被告に対し、〈1〉不法行為に基づく損害賠償金等の支払を求めるとともに、〈2〉原告らは、被告との当初の労働契約締結時から雇用区分の中における有期雇用契約社員ではなく準社員であったのに賞与が支払われなかったとして、主位的に、不法行為に基づく損害賠償金等の支払を求め、予備的に、準社員としての地位に基づく賞与支払請求権に基づく賞与等の支払を求めた事案である。 (2)判決は、扶養手当、リフレッシュ休暇、特別休暇及び半日休暇に係る労働条件の相違は労働契約法20条にいう不合理と認められるとして、損害賠償請求を認容した。 |
参照法条 | : | 民法709条 労働契約法20条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則 (民事) / 7 男女同一賃金、同一労働同一賃金 |
裁判年月日 | : | 令和5年3月16日 |
裁判所名 | : | 津地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成30年(ワ)521号 /令和2年(ワ)321号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 判例時報2586号73頁 労働経済判例速報2519号3頁 D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | 控訴 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則 (民事) / 7 男女同一賃金、同一労働同一賃金〕 (1)原告らは、被告と準社員として労働契約を締結したとは認められないから、準社員であることを前提とした賞与に関する主位的請求及び予備的請求は、いずれも認容できない。 (2)正社員は、原告らが行う業務に加え、業務に対する権限の内容、業務の成果の追求及び緊急時の対応等の管理業務を行っているといえ、これは、正社員であれば2年目以降に担当し始めるものもあるから、責任の程度も原告らと大きく異なっているといわざるを得ない。そうすると、原告らと原告らが比較すべきとする正社員との間では、職務の内容は大きく異なるものと認められる。 原告らと原告らが比較すべきとする正社員との間では、転勤又は異動の可能性や、被告のG事業所においての人員配置の在り方も異なっていた。 原告らが、被告において長期間にわたって勤務してきたこと、被告が原告らとの労使交渉に応じつつ待遇を一部改善してきたことは、労働契約法20条所定の「その他の事情」として考慮すべきである。 (3)通勤手当を支給しないことの不合理性 被告において、通勤バスを手配し、その経路についても有期雇用契約社員にある程度配慮した上で決定されており、通勤手当を支給しない代わりの代替手段が存在し、十分に機能していたものといえる。そして、通勤手当を支給しない代わりに通勤バスがあることについて、原告らが被告との間で締結した「有期契約社員労働契約」6条に明記されていることからすると、原告らもこれに了承した上で被告において労働しているものといえる。 したがって、通勤バスという代替手段があったことは労働契約法20条所定の「その他の事情」として考慮すべきであり、通勤手当の相違が、不合理であるとは認められない。 (4)扶養手当を支給しないことの不合理性 被告の正社員に対して扶養手当が支給されているのは、正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。このように、継続的な勤務が見込まれる労働者に扶養手当を支給するものとすることは、使用者の経営判断として尊重し得るものであるが、上記目的に照らせば、有期雇用契約社員らにおいても、扶養親族があり、かつ、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、扶養手当を支給することとした趣旨は同様に妥当するというべきである。そして、被告において、有期雇用契約社員らは、契約期間が6か月以内又は1年以内とされており、実際に被告においても、通常の勤務態度であれば契約の更新をするという運用をしており、原告らは、長期にわたり更新を繰り返して勤務していた。このことからすれば、原告らと原告らが比較すべきとする正社員との職務の内容等につき相応の相違があること等を考慮しても、正社員と原告らのように長期にわたって勤務している有期雇用契約社員らとの間に扶養手当に係る労働条件の相違があることは、不合理であると認められる。 (5)リフレッシュ休暇制度がないことの不合理性 リフレッシュ休暇制度は、職員の勤続年数に着目して、一定の年数に達した者に対して休暇及び旅行券等を支給するものであるから、長期間の勤続年数に達した者に対する報償の目的によるものと考えられる。そして、この目的によれば、このリフレッシュ休暇制度は、有期雇用契約社員らであっても、長期間にわたって勤務した者には、その趣旨が妥当するというべきである。そして、原告らのような実際に長期にわたって雇用となり、リフレッシュ休暇制度の対象となる10年単位の年次まで勤務している者には、上記趣旨が妥当するから、有期雇用契約社員らであっても、職務の内容等に相違があったことをしんしゃくしても、リフレッシュ休暇制度について有期雇用契約社員らに適用しなかったことは不合理であると認められる。 したがって、リフレッシュ休暇制度に関する正社員と有期雇用契約社員らとの労働条件の相違は、労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」であると認められる。 (6)賞与の不支給その他の大幅な賃金格差の不合理性 正社員と有期雇用契約社員らとの間では、職務の内容だけではなく、人事異動や人員配置においても大きな差異があったといえ、これらの差異は、正社員に対する役割の期待からくるものであって、賞与の目的もこれに応じて支給されるものであることからすれば、有期雇用契約社員に賞与を支給せず、また、準社員に正社員よりも大幅に低い一時金しか支払わないことも、直ちに不合理であるとは認められない。 正社員と有期雇用契約社員らでは、職務の内容、配置の変更の範囲でも大きな差異がある。そして、基本給については、正社員は定期昇給があるものの、それは被告における役割の違いによるものであって、そのことのみでこの相違が不合理であるとはいえない。また、原告らは、労組N支部を結成した上で、被告と労使交渉をしているところ、基本給は労使交渉を含む労働市場で決定するという側面もあることからすれば、このことは労働契約法20条所定の「その他の事情」として考慮するのが相当であり、これを加味すれば、正社員と原告らとの基本給の相違が、直ちに不合理であるとは認められない。 (7)年次有給休暇の半日単位の取得ができないことの不合理性 被告の正社員に対して、年次有給休暇の半日単位の取得を認める趣旨は、柔軟に年次有給休暇を取得できるようにすることで、有効に活用できるようにすることを目的とするものである。この目的からすれば、原告らと正社員との職務の内容等につき相応の違いがあるとしても、この違いは重要ではなく、被告において、正社員と同程度の所定労働時間の定めがある有期雇用契約社員であった原告らにおいても同様に妥当するものといえる。そうすると、原告らと正社員との間に半日休暇に係る労働条件の相違があることは、不合理であると認められる。 (8)年次有給休暇付与日数が少ないことの不合理性 有期雇用契約社員らの契約期間が更新された後の6年目という、今後の長期の雇用が現実的に想定されることとなった時点において、有期雇用契約社員らの年次有給休暇の日数が正社員と同じとなることからすれば、上記相違は、有期雇用契約社員らについては採用から5年以内においては未だ長期にわたって働き続けることが明らかとはいえない一方で、正社員については採用時点において長期にわたって働き続けることが想定されているため、当初から手厚く付与するものと考えられる。なお、国家公務員については、人事院規則により常勤職員と非常勤職員とで年次有給休暇の日数は異なり、1年目から5年目までの間において差がある(人事院規則15-14第18~20条、人事院規則15-15第3条等)ことを参照しても、正社員と有期雇用契約社員らとで、年次有給休暇を採用初期から同一にすべきとまでいえるものではない。 したがって、1年目から5年目までの有期雇用契約社員らと正社員との日数の差についても、正社員と有期雇用契約社員らとの相違は、不合理であるとまではいえない。 (9)特別休暇がない又は少ないことの不合理性 特別休暇制度は、冠婚葬祭等の特別の事情が生じた場合、特別に、その事情に応じた日数の有給休暇を従業員に付与するものである。このことからすれば、この制度は、冠婚葬祭等の特別の事情に準備又は対応をする期間を確保することを目的とすることによると考えられる。このことからすれば、特別休暇制度は、職務の内容等を考慮したものではないから、有期雇用契約社員らにもその目的は妥当するものといえる。また、準社員について正社員よりも特別休暇の日数が少ないことについて、冠婚葬祭等の準備又は対応に要する期間の違いが職務の内容等により生じるものとはいえず、これを覆すに足りる証拠もない。 したがって、特別休暇制度に関する正社員と有期雇用契約社員らとの間の労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。 |