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ID番号 09564
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 久日本流通事件
争点 割増賃金該当性
事案概要 (1)本件は、一般貨物自動車運送事業等を業とする株式会社久日本流通(以下「被告」という。)との間で雇用契約を締結し、大型車両の運転業務に従事していた原告が、「残業手当」の名目で支払われていた売上げの10%の賃金(以下「本件残業手当」という。)は、時間外労働等の対価として支払われていたとは認められないなどとして、被告に対して未払賃金等を請求する事案である。
(2)判決は、本件残業手当は、時間外労働等に対する対価として支払われるものとは認められないなどとして、未払賃金等の請求の一部を認容した。
参照法条 労働基準法37条
体系項目 賃金 (民事)/ 割増賃金/ (3) 割増賃金の算定方法
裁判年月日 令和5年3月31日
裁判所名 札幌地裁
裁判形式 判決
事件番号 令和3年(ワ)1981号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1302号5頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔賃金 (民事)/ 割増賃金/ (3) 割増賃金の算定方法〕
(1)本件残業手当は、賃金支給の際に基本給その他の手当とは区別されて支給されていたことから、形式的には通常の労働時間の賃金に当たる部分と判別されていたといえ、また、その名称からすると被告は、時間外労働等に対する対価とする意図で支払っていたものと推認される。
 しかし、本件雇用契約書には時間外労働等の対価として本件残業手当を支給する旨やその算定方法についての記載はなく、本件残業手当の算出方法は、本件賃金規程に記載されている残業手当の算出方法と全く異なるものであること、採用面接やその後の賃金の支給の際に、被告から原告に対して、時間外労働等の対価として本件残業手当を支給する旨やその算定方法について説明しているものとは認められないことからすると、本件残業手当の名称や被告の意図を考慮しても、原告と被告との間に、本件残業手当を時間外労働等に対する対価として支払う旨の合意があったと直ちに推認することはできない。
(2)本件残業手当は、運転手に対して、売上げの10%に相当する金額を支払うものであるから、労働時間の長短に関わらず、一定額の支払が行われるものであるし、本件残業手当として支給される金額の中には通常の労働時間によって得られる売上げによって算定される部分も含まれることとなるから、当該部分と時間外労働等によって得られた売上げに対応する部分との区別ができないものである。また、労働者の売上げに基づくものであるから、労働者の時間外労働時間の有無や程度を把握せずとも算定可能なものであり、使用者に割増賃金を支払わせることによって、時間外労働等を抑制し、労働時間に関する労働基準法の規定を遵守させようとする同法37条の趣旨に反するものであるといわざるをえない。
 したがって、本件残業手当は、時間外労働等に対する対価として支払われるものとは認められない。
(3)被告は、本件残業手当が時間外労働等の対価として支払われたものとは認められない場合であっても、出来高払制の賃金に当たる旨主張する。
 しかし、実態として、労働者の売上げに応じて本件残業手当の額が増減するものであったとしても、出来高払制の賃金といえるためには、賃金の一定部分を出来高払とすることや、当該出来高部分の算定方法等が当事者間で合意されている必要があるものと解されるが、原告が被告に入社する際に、賃金の一定部分を出来高払とすることや、当該出来高部分の算定方法等について説明を受けていたものとは認められず、本件賃金規程にも被告の従業員のうち特定の職務に従事する者に対して、出来高払制の賃金を支給する旨の記載はなく、本件雇用契約書にも基本給に関する記載のほかは、諸手当が当社規定により支給される旨の不動文字による注意書が記載されているのみであること、そして、本件全証拠を検討しても、被告が本件残業手当の支払の際に、本件残業手当の算定根拠となる各運転手の売上げや、本件残業手当の算定方法を開示していたとは認められないことからすれば、原告と被告との間で賃金の一定部分を出来高払とすることや、当該出来高部分の算定方法等を合意していたものとは認められないから、本件残業手当が出来高払制の賃金に該当するということはできない。
 したがって、本件残業手当は、その全部が通常の労働時間によって得られる賃金として、基礎賃金に算入される。