ID番号 | : | 09567 |
事件名 | : | 遺族補償一時金不支給処分取消請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 国・津労働基準監督署長(中部電力)事件 |
争点 | : | 精神障害による自殺に係る業務起因性 |
事案概要 | : | (1)本件は、中部電力株式会社(以下「本件会社」という。)に平成22年4月1日に入社し、本件会社の三重支店(以下「三重支店」という。)営業部法人営業グループのソリューションスタッフチームに所属していたE(以下「本件労働者」という。)が、遅くとも平成22年10月28日頃までに何らかの精神障害を発症し、同月30日、自殺した(本件自殺)。そのため、本件労働者の母である控訴人が、本件労働者は本件会社における過重な業務及び上司によるパワーハラスメントにより精神障害を発病し、自殺した旨主張して、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく遺族補償一時金の支給を請求したところ、津労働基準監督署長(以下「処分行政庁」という。)が平成26年9月26日付けで不支給とする旨の処分(以下「本件処分」という。)をしたことから、被控訴人(国)に対し、本件処分の取消しを求めた事案である。 原判決(名古屋地裁)は、控訴人の請求を棄却したため、これを不服として控訴人が控訴した。 (2)判決は、本件労働者は、本件会社における業務の遂行により「強」に該当する心理的負荷を受けたもので、本件労働者の精神障害の発病及び本件自殺は、業務起因性が認められるとして、控訴人による遺族補償一時金の支給に係る申請について、本件労働者の精神障害の発病が業務上の事由によるものとは認められないとの理由で不支給とした処分行政庁の本件処分は、違法であるから、取り消されるべきであるとし、控訴人の請求を認容した。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法16条 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律30条の2 行政事件訴訟法8条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険/業務上・外認定/ (12) 自殺 |
裁判年月日 | : | 令和5年4月25日 |
裁判所名 | : | 名古屋高裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和3年(行コ)70号 |
裁判結果 | : | 原判決取消自判 |
出典 | : | 労働経済判例速報2523号3頁 裁判所ウェブサイト掲載判例 D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 田中勇気・労働経済判例速報2523号2頁2023年9月20日 |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険/業務上・外認定/ (12) 自殺〕 (1)技術振興センター案件は、特に機種の選定や台数の選択について、経験のない新入社員にとっては困難な作業を伴うものであったと認められるから、新入社員である本件労働者にとっても、最適な数値を見つけるため、試行錯誤しながら何度も空調機を選定して計算するということを繰り返す困難な業務であったと認めるのが相当である。なお、本件労働者は、作成した提案書について、L指導員から、提案する設備の優先度等の修正を受けるなどの支援を受けているが、まずは主担当である本件労働者において、最適な数値を見つけて提案書を作成することが求められていたと考えられるから、上記のような支援を受けていることをもって、本件労働者にとって提案書作成業務が困難な業務でなかったとはいえない。 平成22年8月末頃に本件労働者が主担当とされた技術振興センター案件は、提案書のフォローをした際に客先から依頼された、いわゆる飛び込みの案件であるが、本件労働者が同年7月26日に後記のとおり難しい案件である三井住友案件の主担当を命じられたばかりであり、その業務と並行して上記のとおり困難を伴う技術振興センター案件の業務を主担当として行っていかなければならないことを考慮すれば、技術振興センター案件により本件労働者が受ける心理的負荷の程度はより大きいものであったといえる。これに加え、本件労働者は、平成22年10月9日の休日出勤の際に、G課長から、『計算ミスはお前のせいや』、『おまえなんか要らん』、『そんなんもできひんのに大卒なのか』などと、業務指導の範囲を超える叱責をされていることも含めて総合的に判断すれば、技術振興センター案件によって本件労働者が受けた心理的負荷の程度は、少なくとも『中』に該当するとみるのが相当である。 (2)三井住友案件は、そもそも新入社員にとっては難易度の高い業務であり、かつ、本件労働者が主担当を引き継いだ際には、当初(平成22年4月)予定されていたスケジュールから3か月程度遅れていたため、引き継いだ当初からタイトなスケジュールで業務を進めざるを得ない状況になっていたものであり、本件労働者としては、業務の進め方自体も分からずにいるところ、参考となり得る適切な前例等の資料もなく、K主任らから見本等を示されることもなく、それ以前から見よう見まねで書類等を作成しても駄目出しをされ、本件労働者が真に理解できるような十分な説明や指導が必ずしもされていなかったという状況であったことを踏まえると、中間報告前までの段階においても、本件労働者が受けていた心理的負荷の程度は少なくとも『中』に該当するものであったと認められるところ、中間報告の前後を含めた一連の出来事を通じて本件労働者がさらに著しい心理的負荷を受けたと認められることを考慮すると、三井住友案件の業務に関して本件労働者が受けた心理的負荷の程度が『強』に該当することは明らかというべきである。 (3)本件労働者は、G課長から、平成22年10月9日の休日出勤の際に『お前なんか要らん』、『そんなんもできひんのに大卒なのか』などと言われて叱責されるほか、日々の業務等においても、同様のことを言われたり大学名を馬鹿にされたりしていたと認められる。そして、これらの発言は、業務指導の範囲を逸脱するものであるほか、本件労働者の人格や人間性を否定するものと評価し得るものであるから、これらの発言により本件労働者が受けた心理的負荷の程度は、少なくとも『中』に該当すると認めるのが相当である。 (4)以上検討したところによれば、本件労働者が上司からしばしば業務指導の範囲を超え人格等も否定するような発言をされており、それによる心理的負荷の程度が少なくとも『中』に該当することをベースとして、本件労働者が平成22年4月1日付けで本件会社に入社してから本件自殺までの間に担当した業務のうち、技術振興センター案件により本件労働者が受けた心理的負荷の程度は『中』に、三井住友案件により本件労働者が受けた心理的負荷の程度は『強』にそれぞれ該当すると評価し得ることを総合考慮すれば、本件労働者が本件会社における業務により受けていた心理的負荷の程度は、全体評価としても『強』に該当することは明らかというべきである。 |