全 情 報

ID番号 09568
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 アメックス(降格等)事件
争点 育休復帰後の配置変更等の不利益取扱い該当性
事案概要 (1)本件は、クレジットカードを発行する外国会社である被告(アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッド)の個人営業部の東京のベニューセールスチームのチームリーダーとして勤務していた原告が、産前産後休業及び育児休業(以下、併せて「育児休業等」という。)の取得を理由に、チームリーダーの役職を解かれ、アカウントマネージャーに任命されるなどの措置【具体的には、①被告は、平成27年7月に原告が産前休業に入った後、原告チームの仮のチームリーダーを選任し、組織変更により原告チームは消滅したこと(以下、「平成28年組織変更」又は「本件措置1-1」という。)、②平成28年8月1日、育児休業等から復帰した原告を平成28年組織変更により新設したアカウントセールス部門のマネージャー(アカウントマネージャー)(バンド35)に配置したこと(以下「本件措置1-2」といい、本件措置1-1と併せて「本件措置1」ということがある。)、③被告は、平成29年1月、組織変更により、ベニューセールスチームを3チームから2チームに更に集約するとともに、アカウントセールスチームにリファーラルセールスを担うチームを併合して、リファーラル・アカウントセールスチームを新設し(以下「平成29年組織変更」という。)、そのチームリーダーとしてCを配置したこと(以下「本件措置2」という。)、④被告は、平成29年3月、原告復帰後の最初の人事評価において、リーダーシップ項目の評価を最低評価の3としたこと(以下「本件措置3」という。)、また、被告は、原告に対し、育児休業等からの復帰直後、個人営業部の共用スペースの席で執務するように指示し、平成28年9月から同年12月7日まで、他のフロアにある部屋で執務するように指示したこと(以下「本件措置4」という。)】を受けたことが、「雇用の分野における男女の均等な機会及ぶ待遇の確保等に関する法律」(以下「均等法」という。)9条3項及び「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下「育介法」という。)10条、被告の就業規則等又は公序良俗(民法90条)に違反し人事権の濫用であって違法・無効であるとして、〈1〉主位的に、上記措置がとられる前の被告個人営業部の東京のベニューセールスチームのチームリーダー(バンド35)又はその相当職の地位にあることの確認を求め、〈2〉予備的に、被告個人営業部のアカウントマネージャーとして勤務する労働契約上の義務が存在しないことの確認を求めるとともに、〈3〉不法行為又は雇用契約上の債務不履行に基づき、損害賠償金等の支払を求める事案である。
(2)判決は、原告の訴えのうち、被告の個人営業部の東京のベニューセールスチームのチームリーダー(バンド35)又はその相当職の地位にあることの確認を求める部分については不適法であるとして却下し、その余の請求は理由がないとしていずれも棄却した。
参照法条 民法415条
民法623条
民法709条
改正前民法415条
改正前民法623条
労働契約法5条
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律10条
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律9条
体系項目 労働契約 (民事)/ 人事権/ (1) 降格
裁判年月日 令和元年11月13日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ワ)31423号
裁判結果 一部却下、一部棄却
出典 労働判例1224号72頁
労働経済判例速報2413号3頁
労働法律旬報2037号74頁
審級関係 控訴
評釈論文 稲谷信行・民商法雑誌157巻2号102~114頁2021年6月
新屋敷恵美子(労働判例研究会)・法律時報93巻11号139~142頁2021年10月
野川忍・明治大学法科大学院ジェンダー法センター年報創刊号78~79頁2021年3月
野川忍(明治大学ジェンダー法研究会)・明治大学法科大学院論集24号61~74頁2021年3月
判決理由 〔労働契約 (民事)/ 人事権/ (1) 降格〕
(1)訴えは要するに本件措置1及び同2が執られる以前の部署で就労することができる法律上の地位の確認を求めるものと解されるところ、一般に、労働契約において労働者には特定の部署で就労する権利ないし法律上の地位は認められないから、標記訴えは、特段の事情のない限り確認の利益を欠くものとして不適法であるというべきである。そして、本件においては、認定事実によれば、原告被告間における労働契約において、原告に特定の部署で就労する権利ないし法律上の地位を認めるべき特段の事情に当たる事実は認められない。結局、標記訴えは確認の利益を欠き不適法である。
(2)本件措置1-1について
 原告が育児休業等による休業中に被告からチームリーダーの役職を解く旨の辞令やその連絡を受けたことはなく、平成27年8月の時点では、原告が産前休業を取得するに当たり、原告チームに仮のチームリーダーが置かれたにすぎず、原告からチームリーダーの役職を解く措置がとられたとみることはできない。また、平成28年1月には、原告チームが消滅しているけれども、他方で、原告のジョブバンドは同月以降もバンド35のままであり、被告の人事制度の下では特定のジョブバンドに対応する主な役職が設けられていて、原告が実際に復帰した際にはバンド35に相当する役職に就くことが予定されていたということができる。そうすると、原告チームが消滅した一事をもって、原告からチームリーダーの役職を解かれたとか、原告の所属が不明な状態に置かれたとみることはできず、他にそのような評価を基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はない。
 以上からすれば、本件措置1-1は、降格として、均等法9条3項、育介法10条所定の「不利益な取扱い」に当たるということはできない。
(3)本件措置1-2について
 被告の人事制度及び給与体系等に照らせば、給与等の従業員の処遇の基本となるのは被告においてはジョブバンドであるといえるから、例えばいわゆる職能資格制度における職能等級をさげるというような典型的「不利益な取扱い」としての降格は、本件においては、ジョブバンドの低下を伴う措置をいうと解することが相当である。その意味では、本件措置1-2はジョブバンドの低下を伴わない措置であり、いわば役職の変更にすぎず、上記典型的「不利益な取扱い」としての降格ということはできない。
 本件措置1-2は、降格又は不利益な配置変更として、均等法9条3項、育介法10条所定の「不利益な取扱い」に当たるということはできない。
(4)本件措置2について
 本件措置2は、平成29年組織変更により新設されたリファーラル・アカウントセールスチームのチームリーダーとしてCを配置したものであり、原告が育児休業等から復帰してから5か月後にされたものである。被告は、平成29年組織変更において、東京のベニューセールスチームについて3チームから2チームとすることとしたが、チームリーダーの在任期間や家庭の事情から残存するチームのチームリーダーを変更することが困難であったため、原告の配置先についてはアカウントセールス及びリファーラルセールスを担当する新設チームへの配置を検討することとなり、そのチームリーダーの人選について原告を含む候補者の中から検討した結果、原告の復帰後の勤務態度等を考慮し、他方でCの実績を考慮して、同人を同チームのチームリーダーとし、原告をアカウントマネージャーとして配置したのである。そうすると、本件措置2は原告の育児休業等の取得を理由としてされた措置であるということはできない。
(5)本件措置3について
 被告は、育児休業復帰後のアカウントセールス業務及びリファーラルセールス業務において、原告が自主的、積極的に業務を行う姿勢に欠けたことから、他のバンド35の社員との相対評価において、原告の人事評価のリーダーシップの項目を3と評価としたものであり、本件措置3は原告の育児休業等の取得が理由でされたものとはいえない。また、原告は、個人営業部の実績の4倍のパフォーマンスを上げていた旨主張するが、被告は同人事評価において原告の実績については2と評価しているところ、原告が主張する事情はそもそもリーダーシップ項目の評価に関するものということができるのか疑問があるし、その他に上記認定を左右するだけの事実を認めるに足りる的確な証拠もない。
 したがって、そもそも本件措置3が均等法9条3項又は育介法10条に反するということはできないから、同措置は、均等法9条3項又は育介法10条に反し、ひいては職場環境配慮義務違反等による債務不履行又は不法行為を構成するとの原告の上記主張は、その前提を欠き失当であることとなる。
(6)本件措置4について
 本件措置4は、原告を不当に人間関係から引き離すもので、育児休業等の取得前と比べて就業環境を害するものであるということはできない。
 したがって、そもそも本件措置4が均等法9条3項又は育介法10条に反するということはできないから、同措置は、均等法9条3項又は育介法10条に反し、ひいては職場環境配慮義務違反等による債務不履行又は不法行為を構成するとの原告の上記主張は、その前提を欠き失当であることとなる。