ID番号 | : | 09571 |
事件名 | : | 未払賃金等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 社会福祉法人A事件 |
争点 | : | グループホームでの宿泊時間の労働時間性と割増賃金の基礎単価 |
事案概要 | : | (1)本件は、被告の従業員であり生活支援員としてグループホームにおいて午後3時から9時まで勤務し、そのまま宿泊し、翌日午前6時から10時まで勤務するという勤務形態であった原告が、被告に対し、労働基準法(以下「労基法」という。)37条の割増賃金請求権に基づき、〈1〉夜勤時間帯の就労に係る未払割増賃金等の支払、〈2〉労基法114条所定の付加金等の支払を求めた事案である。 (2)判決は、宿泊時間を労働時間として認めた上で、原告の請求の一部の割増賃金と付加金の支払を認容した。 |
参照法条 | : | 労働基準法37条 最低賃金法4条 |
体系項目 | : | 労働時間 (民事)/ 労働時間の概念/ (6) 手待時間・不活動時間 賃金 (民事)/ 割増賃金/(2) 割増賃金の算定基礎・各種手当 |
裁判年月日 | : | 令和5年6月9日 |
裁判所名 | : | 千葉地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和3年(ワ)1696号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1299号29頁 労働経済判例速報2527号3頁 |
審級関係 | : | 控訴 |
評釈論文 | : | 延増拓郎・労働経済判例速報2527号2頁2023年10月30日 橋本陽子・ジュリスト1593号4~5頁2024年2月 土岐将仁・季刊労働法284号191~200頁2024年3月 鈴木里士・経営法曹220号74~79頁2024年6月 高井洋輔・民商法雑誌160巻3号169~179頁2024年8月 |
判決理由 | : | 〔労働時間 (民事)/ 労働時間の概念/ (6) 手待時間・不活動時間〕 (1)被告の運営するグループホームにおいては、その性質上、毎日、午後9時から翌朝6時までの夜勤時間帯にも生活支援員が駐在する強い必要性があり、各施設につき1人の生活支援員が宿泊して勤務していたこと、入居者の多くは、知的障害を有し、中にはその程度が重い者や強度の行動障害を伴う者も含まれていたこと、特にグループホームDにおいては複数の入居者が頻繁に深夜又は未明に起床して行動し、その都度生活支援員が対応していたこと、原告は生活支援員としてDほか3か所のグループホームで勤務してきたことが認められる。 以上によれば、原告が夜勤時間帯に生活支援員としてグループホームに宿泊していた時間は、実作業に従事していない時間を含めて、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価することができるから、労働からの解放が保障されているとはいえず、使用者である被告の指揮命令下に置かれていたものと認められる。 よって、夜勤時間帯は全体として労働時間に該当する。 〔賃金 (民事)/ 割増賃金/(2) 割増賃金の算定基礎・各種手当〕 (2)労基法37条の割増賃金は、「通常の労働時間又は労働日の賃金」を基礎にして計算されるところ、本件雇用契約においては、基本給のほかに、1日当たり6000円の「夜勤手当」が支給されていたほか、基本給の6%に相当する夜間支援手当が支給されていたことが認められ、これによれば、本件雇用契約においては、夜勤時間帯については実労働が1時間以内であったときは夜勤手当以外の賃金を支給しないことが就業規則及び給与規程の定めにより労働契約の内容となっていたものと認められる。そして、このように1回の泊まり勤務についての賃金が夜勤手当であるとされていたことに照らすと、夜勤手当の6000円は、夜勤時間帯から休憩時間1時間を控除した8時間の労働の対価として支出されることになるので、その間の労働に係る割増賃金を計算するときには、夜勤手当の支給額として約定された6000円が基礎となるものと解される。 したがって、被告における夜勤時間帯の割増賃金算定の基礎となる賃金単価は、750円であると認めるのが相当である。 (3)原告は、原告の勤務は、泊まり勤務の後に午前10時まで勤務することを基本としていたが、原告が更に続けて勤務したときは、その超過時間数に応じ、給与明細書に記載された時間数に応じた「時間外手当」が支給され、その時間数及び額によれば、原告の割増賃金算定の基礎となる賃金単価は、そのときの基本給の額に応じて1528円、1540円又は1560円となると主張する。 しかしながら、夜勤時間帯が全体として労働時間に該当するとしても、労働密度の程度にかかわらず、日中勤務と同じ賃金単価で計算することが妥当であるとは解されない。 労基法37条が時間外、休日又は深夜の労働について使用者に割増賃金の支払を義務付けている趣旨は、これによって、時間外労働等を抑制し、もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに、労働者への補償を行おうとすることにあるものと解されるが、日中勤務と比べて労働密度の薄い夜勤時間帯の勤務について、契約において特に労働の対価が合意されているような場合においては、割増賃金算定の基礎となる賃金単価について前記(2)のように解することが労基法37条の上記の趣旨に直ちに反するものとは解されない。 (4)最低賃金に係る法規制は全ての労働時間に対し時間当たりの最低賃金額以上の賃金を支払うことを義務付けるものではないから、泊まり勤務に係る単位時間当たりの賃金額が最低賃金を下回るとしても、直ちに泊まり勤務の賃金額に係る合意の効力が否定されるものとは解されない。 |