ID番号 | : | 09572 |
事件名 | : | 懲戒免職処分取消請求事件(26号)、退職手当支給制限処分取消請求事件(13号) |
いわゆる事件名 | : | 宮城県・県教育委員会(県立高校教諭)事件 |
争点 | : | 飲酒運転による事故を理由とする懲戒免職、退職金不支給処分の有効性 |
事案概要 | : | (1)本件は、宮城県の県立高校の教諭であった原告が、平成29年4月28日午後6時20分頃から午後10時20分頃まで、2軒の飲食店において、グラスビールを1杯、日本酒を3合、ビール中ジョッキ1杯程度の飲酒をした上、帰宅するために自家用車の運転を開始して程なく、丁字路交差点手前で一時停止後に右折した際、優先道路から進入してきた右折車と衝突する物損事故を起こした非違行為(以下「本件非違行為」という。)を理由に、宮城県教育委員会(以下「県教委」という。)が原告に対してした平成29年5月17日付け懲戒免職処分(以下「本件懲戒免職処分」という。)及び一般の退職手当等の全部を支給しない旨の退職手当支給制限処分(以下「本件不支給処分」といい、本件懲戒免職処分と併せて「本件各処分」という。)はいずれも裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであるなどと主張してその取消しを求める事案である。 (2)判決は、原告の請求は本件不支給処分の取消しを求める限度で理由があり、その余は理由がないとして、退職手当支給制限処分を取り消し、その余の請求を棄却した。 |
参照法条 | : | 地方公務員法 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇/ 10 処分の量刑 |
裁判年月日 | : | 令和3年12月2日 |
裁判所名 | : | 仙台地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 令和1年(行ウ)26号 /令和2年(行ウ)13号 |
裁判結果 | : | 認容(13号)、棄却(26号) |
出典 | : | 最高裁判所民事判例集77巻5号1089頁 労働判例1297号115頁 労働経済判例速報2528号14頁 判例地方自治504号38頁 労働法律旬報2056号65頁 D1-Law.com判例体系 |
審級関係 | : | 控訴 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇/ 10 処分の量刑〕 (1)本件非違行為における酒気帯び運転は故意の犯罪行為であり、教職員の公務に対する信用を失墜させる程度は大きいところ、原告は、約4時間の間に相当量の飲酒をした上で、安易に酒気帯び運転を開始するに至っており、その経過に酌むべき事情は見当たらない。また、相手方車両がほとんど右折を完了した後に原告が接触したという本件事故の態様からすれば、本件事故には、飲酒の影響により注意力が散漫になったことが影響しているものと推認され、これを覆すに足りる証拠はない。 さらに、教職員は、生徒と直接触れ合い、教育指導する立場であり、このような立場の者の非違行為は、生徒に対する悪影響をもたらすものである。原告が本件事故当時担任をもって生徒を指導していたこと、本件非違行為が、教職員による飲酒運転が繰り返される中で、懲戒処分を厳格化する方針であることが周知され、教職員全体で飲酒運転根絶に向けた意識を高めていた中で行われたものであることも踏まえると、本件非違行為は、生徒、保護者及び社会一般からの教職員の公務に対する信用を大きく損なうものであるといえる。 そうすると、飲酒運転に計画性はうかがわれないこと、原告が管理職ではなかったこと、原告に、懲戒処分歴はなく、特段問題を起こさず約30年間教諭として誠実に勤務してきたこと、本件非違行為後に警察官に自ら飲酒を申告したこと、本件事故の被害が物損にとどまり、その被害は回復されていること、原告が退職届を提出するなどして本件非違行為についての反省の情を示していることなどの事情を考慮しても、本件懲戒免職処分が、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものであるとはいえない。 (2)本件非違行為における酒気帯び運転は故意の犯罪行為であり、特に、懲戒処分の厳格化の周知がされ、教職員全体で飲酒運転根絶に向けた意識を高めていた中で行われたものであることも踏まえると、公務に対する信用を大きく損なうものであることは、前記のとおりである。したがって、退職手当が大幅に減額されることはやむを得ないというべきである。 他方で、原告には懲戒処分歴はなく、本件非違行為の前には特段問題を起こさず約30年間教諭として誠実に勤務してきたこと、本件事故による相手方の被害が物損にとどまり、その被害は回復されていること、原告が退職届を提出するなどして本件非違行為についての反省の情を示していることのほか、本件不支給処分により支給制限された退職手当の額が1724万6467円に上ることを指摘することができる。これらの事実に、退職手当が賃金後払いの性格や退職後の生活保障の性格を併せ持つことを考慮すると、上記金額の退職手当を全額不支給とすることは、本件非違行為の内容と比し、原告が被る不利益があまりに大きいというべきであり、社会通念上著しく妥当性を欠くといわざるを得ない。 したがって、本件不支給処分はその裁量権の範囲を逸脱するものであるというべきである。 |