全 情 報

ID番号 10160
事件名 労働基準法違反被告事件
いわゆる事件名 山梨製紙事件
争点
事案概要  会社代表者が労基法違反(賃金不払)の行為者である場合、両罰規定の適用の有無が争われた事例(肯定)。; 解雇予告の除外事由の要件を充たさない解雇の申渡しの効果について争われた事例(無効)。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法121条
労働基準法24条
労働基準法120条1号
労働基準法20条
体系項目 賃金(刑事) / 賃金の意義
罰則(刑事) / 両罰規定
賃金(刑事) / 賃金の支払い方法 / 定期日払い
解雇(刑事) / 解雇予告と除外認定
裁判年月日 1955年9月22日
裁判所名 甲府地
裁判形式 判決
事件番号
裁判結果
出典
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金の意義〕
 報償的性質を持つた退職金〈積立金でない退職金〉の実質は労働者の過去における労働の対償であるから、使用者が恩恵的に支給する場合は別として、労働協約、就業規則、労働契約等において予めその支給条件を定めている場合においては労働基準法一一条、二三条の賃金に含まれている。
〔罰則-両罰規定〕
 被告人Y1は被告会社の代表者として本件違反の防止に必要な措置をしたのであり、違反を教唆した場合でないことは勿論違反行為と知りその是正に必要な措置を講じなかつた場合でもないから事業主たる被告会社に刑事責任の及ぶ理由はなく行為者として処罰されるべき理由もないと主張するが、労働基準法第一二一条第一項本文所定の「事業主のために行為した代理人」の中には事業主が会社である場合にその代表者を含むものと解すべきである。違反行為が単なる代理人、使用人その他の従業者により為された場合に事業主たる会社に対し罰金を科するに拘らず、これ等の者より更に会社と密接な関係にある会社の代表者が違反行為をした場合会社を罰しないとすることは労働者の保護のための各条項の遵守を刑罰を以つて保障する上更に両罰規定を以つてその保障を完たからしめようとする労働基準法の精神に反するからである(昭和二六年一一月五日東京高等裁判所判例参照)。同条項但書に法人の代表者が違反防止に必要な措置をした場合においては事業主たる法人に刑責が及ばないと規定しているのは代表者以外の者による違反のあつた場合を前提としているものと解すべきであり、本件の如く会社の代表者により違反行為が為された場合但書適用の余地はない、又代表者自身同法一二一条第二項を俟たず同法第一二〇条により当然行為者として刑事上の責任を負担すると解すべきである。
〔賃金-賃金の支払い方法-定期日払い〕
 被告人Y2の弁護人は、
 被告人Y2が判示第一の賃金の支払をしなかつたことは事実であるが、所定の期日にその支払をすることは到底期待することの不可能な事情にあつたものであるから不払について責任がないと主張する。その論旨は会社に賃金を支払うべき賃金があるに拘らず支払はないのではなく、事実上資金がない故に支払えないのであるから、賃金の支払を期待できないと謂うもののようであるが、賃金は労働者にとり生活の根源であり、その支払は確実に保障されねばならない、さればこそ労働基準法第二十四条は賃金が毎月一回以上、一定の期日に通貨を以つて直接、労働者に支払われるべきことを強く命じているのである「無い袖は振れない」と謂う抗弁を当然のこととして容認するものではなく、賃金の支払い義務者に対し不払の事態を招来することのないよう万全の努力を尽すべきことを要求していると謂わねばならない。本件において、この点につき被告人Y2は資金の融資を求めて山梨中央銀行吉田支店に対し若干交渉の衝に当つたことを自供している外、当時の実際上の経理担当者として万全の努力を尽したと認むべき証拠は全くない。従つて尽すべきことを尽してなお且賃金の支払を期待することが不可能な事情にあつたとは認め難い。
〔解雇-解雇予告と除外認定〕
 被告人等に判示第四の休業手当支払の義務なしとしてその理由として三〇日分以上の平均賃金の支給を伴わない即時解雇の申渡しは即時解雇として無効であつても解雇が必ずしも即時解雇であることを要件としていないと認められる場合には三〇日経過後において解雇する旨の予告としての効力を有するから本件の場合昭和二八年七月二六日の解雇申渡しにより同年八月二五日に全従業員解雇の効果を生じその以後会社と全従業員との間に雇傭関係は存続せず、会社は同年九月二日に三八日分の平均賃金相当の解雇手当を支払つたのであるからそれ以上休業手当等支払うべき理由がないと主張するが労働基準法はその第一三条に最も明かに現れているとおり労働者の保護を目的として労働条件の最低基準を定めた強行法規であり殊に解雇の効果は直接労働者の生活に極めて重大な影響を及ぼす事項であるから第二〇条は天災事変又は、これに準ずる不可抗力と見るべき程度の事由により事業の継続が不可能となつた場合若しくは労働者の責に帰すべき事由に基く場合の外、凡そ有効に解雇し得るためには所定の予告若しくはこれに代るべき解雇手当の支給を強く要請し、その遵守を刑罰を以つて保障しようとするのであつて、この要件を満さない解雇の申渡しは即時解雇として無効であることは勿論、三〇日経過後の解雇予告としても効力を認むべきではない。民法第六二七条につき雇傭契約の即時解約の申入れは即時に雇傭関係を終了せしめる効果はないが二週間の経過によりその関係を終了せしめる効果を生ずるとする転換解釈は妥当と認められるが、直ちにこれを採つて労働基準法第二〇条の解雇の場合に適用することは両法条の性質、規定の立言方法の相違よりして相当とは考えられない。仮に即時解雇の申渡しが三〇日後の解雇の予告として効力ありとの解釈を採るとしても、そのためには弁護人の主張自体認めるように無制限ではなく、必しも即時解雇であることを要件としていない場合に限るのである。本件の場合被告人Y1が解雇の申渡しをするに際して将来会社が事業を再開し得る場合には現従業員を凡て優先的に採用する旨を告げていることが認められるが、このことはむしろ現に申渡す解雇が即時解雇であることを前提としたものと解し得るのであつて、この申渡しを解雇の予告と〔して-編注〕転換解釈する条件を欠いていると謂わねばならない。