全 情 報

ID番号 10186
事件名
いわゆる事件名 上田仙之助事件
争点
事案概要  能力の個人差による賃金分配の勘案を一任された被告人が一括支払をうけた賃金総額から一定額を控除し、これを自己を含めた熟練労務者間に分配したことが中間搾取に当たるか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法6条
労働基準法118条1項
体系項目 労基法総則(刑事) / 中間搾取
裁判年月日 1954年3月11日
裁判所名 仙台地
裁判形式 判決
事件番号
裁判結果
出典
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法総則-中間搾取〕
 本件の起訴は被告その他会社側の者の俗に謂う出来高払なるものを通常の意味における個々の労務者の出来高に応ずる賃金と誤解し、その結果被告人が前記の如き控除をなした額を以て直ちに被告人の利得なりとする誤りに出たものという外はない。或は工賃計算表(証第三号)に概ね平等の割合を以て各労務者の賃金が掲記されてあり、その各人の賃金合計が賃金台帳(証第一、二号)と符号している点から見て平等分配こそが被告人の会社からの委託の趣旨に副う分配であると見る向があるかも知れないが、之等の諸帳簿は被告人並に証人A等の当公廷における供述を総合すれば被告人が労務者をして所得税の一部を免れさせようとの意図などから真実に副わない実額よりも寡少に分配の内訳を会社に報告し、これに基き作成されたものであり、このことは右の証拠の外Bに対する賃金支払表(証第四号)と前記工賃計算表(証第三号)の該当欄の各金額の不符合、工賃計算表(証第三号)の合計金額と国近操作成の賃金支払明細表記載の金額(会社から被告に一括払渡した金額を記載したもの)と符合しない事によつても容易に首肯し得るところであつてこれらの諸証拠を全面的に信を措くことができないから前記認定の妨げとなるものでない。
 以上の理由により被告人が前記労務者約四十名の労務に介入し果して如何なる利益を得たか、これを確定すべき証拠がないことに帰し、被告人に対しては刑事訴訟法第三百三十六条により無罪を言渡すべきものである。