全 情 報

ID番号 10256
事件名 労働基準法違反事件
いわゆる事件名 安立電気事件
争点
事案概要  賃金不払につき会社取締役社長と会社が起訴された事例(有罪)。
参照法条 労働基準法24条2項
体系項目 賃金(刑事) / 賃金の支払い方法 / 定期日払い
裁判年月日 1950年11月11日
裁判所名 東京簡
裁判形式 判決
事件番号
裁判結果 有罪(罰金10,000円)
出典 裁判資料55号643頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金の支払い方法-定期日払い〕
 被告Y1株式会社は旧商号をA株式会社と云い昭和六年三月十七日設立され、東京都港区(略)に本店及工場を設け、其の目的として電気通信機具材料の製造販売等を営んでゐた処、昭和二十五年十月六日解散し清算中のもの、被告人Y2は昭和九年頃から同二十四年七月十一日迄被告会社の代表取締役社長として同会社の業務一切を統轄執行してゐたものであるが、被告会社の労働者に対する賃金支払日は毎月二十五日であるのに被告人Y2は被告会社の業務に関し、
 第一 昭和二十四年二月二十五日前記被告会社本店及工場に於て被告会社の労働者B外五百八十一名に対し、同人等に支払ふべき二月分賃金合計三百七十三万六千八百二十円三十七銭を支払はず、
 第二 同年三月二十五日同所に於て被告会社の労働者B外五百三十三名に対し、同人等に支払ふべき三月分賃金合計三百十七万七千六百七十一円十一銭を支払はなかつたものである。
 (証拠説明省略)
 (適条)
 被告人Y2の判示第一及第二の各所為は、夫々労働基準法第二十四条第二項本文、第百二十条第一号、罰金等臨時措置法第二条に該当する処、以上は刑法第四十五条前段の併合罪である。(検察官主張の各労働者毎に労働基準法第二十四条第二項本文違反の罪が成立し、それ等が更に併合罪の関係にあるとの見解は採用しない)から刑法第四十八条第二項に依り所定罰金の合算額の範囲内で被告人Y2を罰金一万円に処する。
 (中略)
 一 弁護人高瀬太郎及被告人Y2は、次の通り主張する。
 即ち被告会社の業務運営は取締役会の決議によつてなされ、被告人Y2は同役会の議長となり取締役の一員として取締役会の意思決定の進行に参与する地位にあるに過ぎないから、取締役会の意思決定を無視して自己の意思決定の自由はないし、同被告人は総て同役会の意思に基き行動したものであるから無罪であるとの趣旨の主張であるが、たとえ取締役会に於て賃金支払其他之に関係ある決議があつたとしても、被告会社に労働者に対する賃金支払の義務ある以上、之を怠る如き結果を生ずる取締役の決議は正当なる業務行為と言ひ難く、同被告人に於て取締役会の決議を無視しての自己の意思決定の自由はないとは言えないし、同被告人に於て右決議に参加し之を執行した以上其の結果生ずる賃金不払に対する刑事上の責任を免れることはできない。