全 情 報

ID番号 10310
事件名
いわゆる事件名 朝日興業事件
争点
事案概要  就業規則の届出につき、代表取締役が労基法違反(就業規則の届出義務違反)の行為者である場合、労基法一二一条の両罰規定が適用されるか否かが争われた事例(否定)。
参照法条 労働基準法89条
労働基準法121条
体系項目 就業規則(刑事) / 届出義務
罰則(刑事) / 両罰規定
裁判年月日 1949年9月8日
裁判所名 富山地
裁判形式 判決
事件番号
裁判結果
出典
審級関係
評釈論文
判決理由 〔就業規則-届出義務〕
〔罰則-両罰規定〕
 尚被告人Y1は被告人Y2と共謀の上被告人会社の業務に関し、同会社が労働基準法の規定により就業規則を作成し同法施行の日から六ケ月間(昭和二十三年二月末日まで)を経過後遅滞なく所轄富山労働基準監督署長に届出なければならないのに昭和二十四年二月二十四日に至るも届出をしなかつたとの公訴事実には被告人Y1において被告人Y2と相謀り届出義務を怠つたことを認むべき証拠がなく却つて証人Aの当公廷における証言並本法の法意に徴すれば本件就業規則の届出義務は原因発生当時の被告人会社の代表者であつた被告人Y2の負担すべきものであることを認めることができる。而して本件届出義務は使用者たる地位に伴う法律に基く義務であり、之に違反すれば犯意の有無にかかわらず事業主であるの故を以て処罪されるものといわねばならない。従つて後日被告人Y1に於て社長に就任し代表者となつても右懈怠の責を承継負担するものではない。
 更に被告人会社に対し労働基準法第百二十一条を適用処罰すべき旨の主張について按ずるに同法条は同法の違反行為者が事業主(会社)の代理人使用人その他の従業員である場合において法人の代表者が違反の防止に必要ある措置を講じなかつたときに限り事業主たる法人に対しても罪金刑を科する旨の規定であり法人の代表者が違反行為をした場合には同法第百二十条に則り事業主の違反行為として代表者個人を処罰すれば足り、右行為者の外法人たる事業主をも処罰することは出来ない。けだし行為者を罰する外法人を処罰する場合には特に法人を処罰し得る旨の両罰規定の存在を必要とするところ本法に於ては同法第百二十条に依り違反行為者個人を罰する規定以外に所得税法第七十二条及び失業保険法第五十五条の如き行為者の外法人をも処罰すべき旨の規定なく唯前記第百二十一条に該当する場合に限り例外として事業主たる法人をも処罰することができるのである。而して本件においては前示の通り違反行為をなした者が届出義務者たる代表者Y2であるから同法第百二十一条の適用がないものと謂わねばならない。