全 情 報

ID番号 10514
事件名 労働基準法違反被告事件
いわゆる事件名 甲陽護謨工業事件
争点
事案概要  満一八歳以上の女子労働者につき三六協定の枠をこえて時間外労働させたとして使用者が起訴された事例。
参照法条 労働基準法32条
労働基準法36条
労働基準法61条(旧)
労働基準法64条の2
体系項目 女性労働者(刑事) / 女性の時間外労働
裁判年月日 1967年1月30日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和41年 (う) 1603 
裁判結果 破棄差戻
出典 高裁刑集20巻1号7頁/タイムズ206号140頁/労経速報595号9頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔女性労働者-女性の時間外労働〕
 労働時間について同法三六条による協定いわゆる三六協定がある場合に女子労働者(但し、満一八年以上の者に限る。以下同様)についての同法六一条のような制限規定のない男子労働者(但し、満一八年以上の者に限る。以下同様。)については使用者が右協定に定められた延長時間の限度に従わずこれをこえる時間外労働をさせた場合には三六協定の条件をみたさないものであるから、右原則に戻つてその時間外労働の時間の長短を問わず同法三二条違反の罪が成立すると解すべきである。ところで、女子労働者については同法六一条に使用者は三六条の協定による場合においても、一日について二時間、一週間について六時間、一年について百五十時間をこえて時間外労働をさせてはならないと規定されており、右規定は女子労働者の労働時間については、男子労働者の場合に三六協定による時間延長に制限がないのに対し、時間延長の最大限を設け一般に体力が男子に劣る女子を特に保護しようとしているとみるべきであり、同法はその他安全、衛生の面においても男子の労働者より以上に女子労働者を保護する規定を設けている。このようにみてくると、男子労働者について右のようにいわゆる三六協定による延長時間の制限をこえて時間外労働をさせた場合にその時間外労働の時間の長短を問わず直ちに処罰されるのに、女子労働者については同様の所為があつても、同法六一条の一日二時間、一週六時間の制限内である場合には処罰されないというのは不合理であることは正に所論が指摘するとおりであつて、同法六一条はいわゆる三六協定による延長時間を超過しても、同条に規定する限度内の時間外労働を許容する趣旨のものとみることはできない。すなわち、同法六一条本文はいわゆる三六協定のない場合の労働時間は一日八時間、一週四八時間をこえてはならないという同法三二条一項、その変形としての同条二項の規定と三六協定がある場合はその協定の範囲内で時間外労働をさせることができるという同法三六条の規定を前提とし、三六協定による場合においても、女子労働者については一日二時間、一週六時間をこえる時間外労働をさせてはならないことを規定しているのであるから、本件のように女子労働者について三六協定において時間外労働の限度を一時間と定めている場合にはこれをこえる時間外労働をさせても、一日二時間、一週六時間の制限内である限りは同法六一条には触れないから同条の違反ということはできないけれども、原判決のいうように単なる協定違反となるに過ぎないものでなくて、八時間労働の原則に対する例外規定である同法三六条に定める条件を充たさない場合として男子労働者の場合と同様に右原則に戻り同法三二条一項違反の罪を構成すると解すべきである。