全 情 報

ID番号 10533
事件名 労働組合法違反被告事件
いわゆる事件名 正田製作所事件
争点
事案概要  組合幹部の解雇が旧労組法一一条に違反するとして起訴された事例。
参照法条 労働組合法11条
体系項目 労基法総則(刑事) / 均等待遇 / その他
裁判年月日 1949年9月20日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号
裁判結果 有罪(一部禁錮3か月・一部罰金500円)
出典 刑事裁判資料55号258頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法総則-均等待遇-その他〕
 解雇の意思表示は使用者が労務者に対して為されたものでなければ意味のないことはいう迄もないが、果してAは解雇されたというB等九名に対し使用者であろうか。本件営業譲渡契約には雇傭関係は総てCからAに移転しAが新たに使用者となるべきことを定めてあるが、使用者は労務者に賃金を支払い、理由なく解雇してはならないので将来に対する生活の安定を得させる責務があり退職の時も規約に基く手当を支給すべき義務がある。これ等の義務は使用者と新使用者との間の契約だけで新使用者に移転せられるべきものではなく債務の引受又は更改の方法によるべきである。即ち債権者(即ち労務者)は常に契約の当事者でなければならないのであつて、債権者たる労働者が関与しない契約で右義務が消滅し若くは新使用者に移転せられることはないので、のみならず使用者の有する債権をも民法第六百二十五条第一項によつて労務者の承諾を要するものであるから、CとA間になされた本件営業譲渡契約に伴う雇傭関係移転の条項は少なくともこれに反対するB等九名のものに対してはその効力がないものと認むべきである。右のように解するとAはこれを新経営者として認めない右B等に対しては使用者ということができないから同人がなした解雇の申渡しもB等に対しては意味をなさず、B等としてはこれを黙殺すれば足ることである。尤もB等がAを新経営者として認めない以上事実上工場において働くことはできなくなるであろうが、これは使用者Cが雇傭契約上の義務を果さないことに起因するのであるからその責任を追究すべきである。(ホのことは公訴事実となつていないことは勿論である)以上述べた所によつて仮りに被告人等がAの本件解雇申渡に共同加担していたとしても、Aの解雇の申渡が解雇として法律上意味をなさないとすれば、被告人等の共同加担も亦意味をなさないことである。
 C等に共同正犯としての刑責を認める事はAの解雇申渡が解雇として有効であることを前提とするのである。或は刑法第六十五条第一項の規定により被告人等は共同正犯として刑責があるのではないかという疑があるが、AにおいてCが使用者として労務者たるB等を解雇する旨の申渡をしたとすれば被告人等は右規定により共同正犯として刑責あるだろうが、Aにおいて右のような趣旨の解雇申渡をしたことは、その証拠がない。却つてAは同人が新使用者として解雇申渡をしたことは記録上明白であるから被告人等において共同正犯の責任がない。なおCはAをその道具として解雇の申渡をしたことも証拠がないからCは間接正犯としての責任もなく、従つて他の被告人等も同じく責任がない。