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ID番号 10555
事件名 労働基準法違反被告事件
いわゆる事件名 日産木材工業事件
争点
事案概要  年少労働者に対し法定労働時間を超えて労働させたことを理由として、罰金刑が言い渡された事例。
参照法条 労働基準法60条3項
労働基準法121条1項
労働基準法119条1号
労働基準法56条
体系項目 年少者(刑事) / 未成年者の時間外労働
罰則(刑事) / 併合罪等
罰則(刑事) / 両罰規定
裁判年月日 1964年3月13日
裁判所名 名古屋家
裁判形式 判決
事件番号
裁判結果 有罪(一部罰金8,000円・10,000円)
出典 家裁月報16巻7号105頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔年少者-未成年者の時間外労働〕
〔罰則-併合罪等〕
 (法令の適用など)
 被告人Y1の判示行為は労働基準法第一一九条第一号第六〇条第三項罰金等臨時措置法第二条第一項に各該当するところ、その所定刑中罰金刑を各選択し、右は刑法第四五条前段所定の併合罪であるから、同法第四八条第二項により各罪に付き定めたる罰金の合算額以下において、同被告人を罰金一万円に処し、同被告人において右罰金を完納し得ないときは、同法第一八条により金五〇〇円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置することとする。
 また、被告人Y2株式会社は、右被告人Y1が取締役兼工場長として同会社の業務に関してなした判示労働基準法違反の行為につき、同法第一二一条第一項本文にいわゆる事業主の関係にあるものである。ところが、弁護人は、右会社代表者において、年少労働者らの時間外労働を防止するため、平素右会社の幹部らに対して注意するとともに、朝礼等を利用して従業員らに対しても広く右趣旨を徹底させるよう努めていたから、右会社は、本件について違反の防止に必要な措置をなしていたもので責任を負うべきいわれがない旨主張する。よつて、これを検討するに、右会社代表者Aの当公廷における供述によれば、同人は昭和三八年三月頃心臓を患つて約三カ月間入院療養し、その後においても遅く出社して早く退社し、朝礼にも毎月一回程度出席したのみで、殆んど同会社の要務を工場長の被告人Y1らに委ねていた関係上、同会社の実情に充分通じ得なかつたことが認められる。しかし、前掲証拠に労働基準監督官作成の監督経歴報告書及び事業場台帳謄本の記載を併せ考察すれば、右代表者は、従来より年少労働者らの時間外労働を成るべく避けようと意図してはいたが、同会社の経営上の要請と残業を歓迎する年少労働者らの態度にあつてこれを黙過するうち、同年五月三一日、所轄労働基準監督署よりこれが是正勧告を受けて請書を差し入れる事態を招来したため、特に指示をなして右違反の防止に努力していたものの、同年七月頃に至つて約三割に上る生産の低下を来たし苦しい事態に当面するや、右事態を急きよ挽回しようと企図し、これを被告人Y1ら現場責任者に強く指示した結果、同年八月初旬の生産会議において、同月の生産目標高を合板二五万枚ないし二四万枚と決定し、かつ従業員らを督励してその目標高を達成せんとした矢先、成年者に多くの欠勤者を見た関係上、要所にある年少者を成年者に代えて生産に当らしめる必要に迫られ、漸次年少者らをして残業させるに至つた結果、判示のとおり、年少労働者らをして時間外労働に服さしめるに至つたことが認められる。これによれば、右代表者は、所轄労働基準監督署より前記是正勧告を受けた直後においては、その違反の防止に努力したが、そのため程なく生産の低下等を招来するや、急きよ右事態を挽回するため、再び年少労働者らの時間外労働の復活を予知しながら、加重な生産目標を樹立させてその達成を督励した結果、被告人Y1ら現場責任者により本件労働基準法違反の所為がなされるに至つたもので、右代表者の行為により右被告人会社において本件違反の防止に必要な措置をなした場合には当らないものといわねばならないから、弁護人の右主張は採用し得ない。以上の理由により、被告人Y2株式会社に対しては、労働基準法第一二一条第一項第一一九条第一号第六〇条第三項、罰金等臨時措置法第二条第一項、刑法第四五条前段第四八条第二項により、各罪に付き定めたる罰金の合算額以下において、右認定の犯情並びに本件後同違反の防止に努めている事情等を勘案し、同被告人会社を罰金八千円に処することにする。