全 情 報

ID番号 10568
事件名 労働基準法違反等被告事件
いわゆる事件名 株式会社姫野組事件
争点
事案概要  丘陵を切り取り道路を開設する工事に当たって工事の現場監督主任として工事施行に関する権限を有していた者が、崩落の危険を防止するため作業箇所の上部を切り取り、安全な勾配を保持する義務を怠ったとして労働安全衛生規則(旧)一一六条等に違反するとして起訴された事件。
参照法条 労働安全衛生規則116条1号
刑法211条
刑法54条1項前段
体系項目 労働安全衛生法 / 危険健康障害防止 / 危険防止
労働安全衛生法 / 罰則 / 刑法の業務上過失致死傷罪
労働安全衛生法 / 罰則 / その他
裁判年月日 1954年6月24日
裁判所名 名古屋高
裁判形式 判決
事件番号 昭和28年 (う) 1215 
裁判結果 棄却
出典 高裁刑集7巻8号1187頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働安全衛生法-危険健康障害防止-危険防止〕
 本件工事現場の地形及び土質は、原審鑑定人Aの鑑定書、原審証人A、同B、Cの各証言並に原審検証調書及び当審鑑定人越賀正隆の鑑定書によれば、高さ四、五メートル、長さ六十メートルの丘陵を切り取り幅二十五メートルの道路を開通する工事であつて、その土質は、上部に約一、五メートルの粘土質細砂層、その下部に砂質粘土層が殆んど水平に層を為して重なり、膠結度が低く、地盤としては、ぜい弱であるため、掘さく工事を為すに際しては、崩壊の危険があることが明らかに認められる。従つてかかる工事を為すに際しては、労働安全衛生規則第百十六条第一号に規定してある通り、作業個所の上部を切り落し、安全なこう配を保持し、又は適当な土留を設けると災害の危険を防止し得るが、切り取り個所にこう配を設けることなく、垂直の断面の下部の一部をくりぬいて土砂を崩壊させる方法によるときは、切り取り個所において工事に従事している労働者は、土砂の崩壊により、身体又は生命に危害を受ける危険のあることは、明らかである。前記規則第二号において、前記第一号のような安全な工事方法によることができないときは、看視人を置き、作業を監視させることを要する旨を規定しているが、前記の第一号によることができない場合とは、地形の性質上、上部から安全なこう配を保持して土砂を落すことのできない場合か又はかかる工事が可能であるとしても、緊急やむを得ない事情があつて、かかる安全な工事方式によることができない場合を指すものと解すべきである。而して緊急やむを得ない事情とは工事の完成が時間的に切迫して居り、若しこれに遅れるときは、他人の生命、身体、自由若しくは財産に重大な危難を及ぼす場合で、工事の危険より他にそれより高度の危険又は財産上の損害がある場合で、かかる事情がない限り、前記第一号の安全な方式による工事をしなければならないものである。〔労働安全衛生法-罰則-その他〕
〔労働安全衛生法-罰則-刑法の業務上過失致死傷罪〕
 労働安全衛生規則第百十六条第百十七条の義務を怠り、労働基準法第四十二条第百十九条第百十九条第一号に触れる本件行為は、刑法第二百十一条の業務上の過失罪に触れる行為と認めることができるものであつて、前者は後者の特別法関係に立つものでなく、刑法第五十四条第一項前段の一所為数法に触れる行為と認めるのが正当である。本件のような工事を為す使用者は、前記の労働基準法及び労働安全衛生規則に定むる注意義務に従う業務上の義務があるから、これを怠れば、前記の労働基準法によつて処罰されると同時に刑法第二百十一条の業務上の過失罪に該当するのは当然である。