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ID番号 10570
事件名 業務上過失致死、労働基準法違反被告事件
いわゆる事件名 長崎県技術吏員被告事件
争点
事案概要  長崎県技術吏員が、県の直営工事である砂防工事の現場主任として業務に従事中に、施設通路の墜落危険のある箇所に墜落防止の「手摺り」を設けなかったことが労働基準法(旧)四三条、労働安全衛生規則(旧)一〇三条等に違反するとして起訴された事件。
参照法条 労働安全衛生規則103条2号
体系項目 労働安全衛生法 / 危険健康障害防止 / 危険防止
労働安全衛生法 / 機械・有害物に関する規制 / その他
裁判年月日 1959年3月28日
裁判所名 平戸簡
裁判形式 判決
事件番号 昭和32年 (ろ) 93 
裁判結果 無罪
出典 下級刑集1巻3号769頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働安全衛生法-危険健康障害防止-危険防止〕
〔労働安全衛生法-機械・有害物に関する規制-その他〕
労働安全衛生規則第一〇三条は「架設通路は丈夫な構造とし、且墜落の危険がある個所には高さ七十五センチメートル以上の丈夫な手すりを設けること」を要求して居る。然らば其の注意は如何、千種万態の工事の現況につき、一々墜落の危険の有無を明規することは、不可能であること勿論であるから、要は当該工事・作業の状況に応じ、架設通路の構造等に鑑み、作業に従事する労務者が作業遂行の過程に於て架設通路より墜落の危険-従つて生命、身体に損傷を蒙る危険-の有無を、指揮監督の責任ある者の業務上必要なる注意による判断に依らしめ、其の危険ある場合は之を防止するに足る設備を設け、以つて此の危険より作業に従事する者を保護すべし、と謂うに在るものと解して可なるべし。
従つて、法文には「丈夫な手すり」とあるも何も「手すり」其のものに限ることなく、近代工業の発達に伴い、之に適応する墜落の危険を防止するに足る設備あれば、右の法意を充足するものと謂つてよい。即危険防止は、当該工事の状態に即し適切な設備あれば足り、敢て「手すり」に依るの要はないと謂うべく。換言せば、墜落防止の設備あれば其の危険はないと謂うことになる。〔中略〕
亡Aが墜落受傷したのは畢竟監督者の選任せざるに拘らず無断で敢てコンクリート運搬の作業に立入り、監督者の命令を無視して待合す箇所でない処に立ち、進行し来る他の車が自己の掴んで居る車に衝突する危険を予知し、避け得られたのに呆然佇立した儘であつたに基因するものと謂うべきである。
凡そ業務上要求される注意義務と雖其の業態に応じて自ら限度あるべく、本件被告人の工事施行上労務者の指揮・監督・危険防止等に於ける業務上の注意義務も亦右に述べる如く亡Aの恣な行為に因る事故の発生に迄及ぶと為すは蓋苛酷に失すること疑を容れず。