全 情 報

ID番号 10573
事件名 労働基準法違反被告事件
いわゆる事件名 八木建設工業事件
争点
事案概要  本件作業が労働安全衛生規則一二七条の四にいう「接近することにより感電の危害を生ずるおそれがある支持物」の電気工業作業に該当し、従業員に活線作業用装置又は活線作業用器具を使用させるべきものであったとされた事例。
参照法条 労働基準法42条
労働安全衛生規則127条の4
体系項目 労働安全衛生法 / 危険健康障害防止 / 危険防止
裁判年月日 1967年2月14日
裁判所名 高松高
裁判形式 判決
事件番号 昭和40年 (う) 253 
裁判結果 有罪(罰金5,000円)
出典 下級刑集9巻2号99頁/時報486号78頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働安全衛生法-危険健康障害防止-危険防止〕
 規則一二七条の四は特別高圧の電路の支持物の電気工事作業のうち、作業のため接近することにより感電の危害を生ずるおそれがある支持物の作業にその範囲を限定して、規制の対象としているのであるが、原判決が本件作業は同条に規定する右の作業に該当しないものと解していることにつき、論旨は事実を誤認したか、法令の解釈、適用を誤つた違法があると主張するので、この点について考察する。
 原審で取調べた労働基準監督官作成の実況見分調書、被告人Yの労働基準監督官並びに検察官に対する各供述調書、及び当審における検証の結果を綜合すると、御代島東一号線三番アームと大江一号線一番アームとの距離は三米であるが、御代島東一号線三番アームで支持された送電線のジヤンパーが垂れ下つていて、右ジヤンパー最下端と大江一号線一番アームとの距離は一・六米また右一番アームの碍子と右ジヤンパー最下端との距離も約一・六米であること、本件の碍子手拭掃除作業は、右一番アームを通つてアーム先端に取りつけられた碍子のところへ行き、その上にまたがり、布切れで碍子を手拭きする作業であること、アーム先端に行くまでの間に高さ約九〇糎、幅約一米の中間固定枠があることが認められ、また押収してある架空電線作業時の安全距離についてと題する書面(証一号)、労働福祉一九六二年八月号(証三号)、電気の安全管理と題する書面(証四号)及び当審証人清水一夫の供述によると、公称電圧六万ボルトの特別高圧線作業時の活線接近による危険限界距離は大体七五糎と解する取扱いになつていることが認められる。ところで、原判決は、大体作業の場合アーム上を這つて中間固定枠をくぐり、そのままの姿勢でアーム先端に到達し、アームの上にまたがつて作業を行なう限りでは、七五糎の危険限界距離内に作業員の身体又は使用器具が入るおそれはないものと考えられ、従つて感電による危害発生のおそれもなくかつ中間固定枠の広さから考えるとその下をくぐるという動作は比較的容易であり、当然の動作である。従つて感電による危害発生のおそれのあるのは作業員が右のような安全な作業要領を無視した場合のことであるとして、本件作業は接近することにより感電の危害を生ずるおそれがある支持物の作業に該当しないと認めているものと解されるところ、本件大江一号線一番アームの手拭掃除作業の対象である碍子及びその作業のために通らねばならない右一番アームから、その上方の活線ジヤンパーまでの距離は一・六米に過ぎないことは前示認定のとおりであるから、普通の成人が立つた場合は、右活線ジヤンパーに接触する高さになるものであり、また右活線に接近する場合の危険限界距離は前示認定の如く七五糎とすると、その下方における作業員の行動し得る安全圏は高さ八五糎という狭隘な範囲に限定されること、そして作業員の不注意もしくは本能的動作によりその身体等が安全圏外に出ることも絶無とはいえないこと、同所は地上約一八・四米の高所であつて、かかる場所で原判示の如く中間固定枠を這つてくぐる動作が比較的容易で当然の動作であり、そのままの姿勢でアーム先端に到達することが容易であると認めることは直ちに是認しがたく、アーム上を通つて中間固定枠を経てアームの先端に行くまでの間に作業員が過つて姿勢を高くし、右の危険限界距離内に身体や所持する器具を入れるおそれは十分あり得るものと認められること、規則一二七条の四に規定されている感電の危害を生ずるおそれがあるというのは、危害防止措置の基準として作業員の不注意もしくは過誤によつて危害が発生する場合も考慮に入れて規定されているものと解されること等を綜合して考察すると、本件作業は規則一二七条の四にいう接近することにより感電の危害を生ずるおそれがある支持物の電気工事作業に該当するものと判定せざるを得ない。
 よつて、本件作業は規則一二七条の四の電気工事作業に該当し、従業員に活線作業用装置又は活線作業用器具を使用させるべきものであつたと認めるのが相当である。