全 情 報

ID番号 10590
事件名 労働安全衛生法違反被告事件
いわゆる事件名
争点
事案概要  労働安全衛生法三〇条一項にいう特定元方事業者の講ずべき義務の範囲である「同一の場所」の意義につき、足場作業が行われていたタンク内に限られるものではなく、作業場全体をいうと解された事例。; 労働安全衛生法三〇条一項にいう労働災害の防止につき、義務履行者が職制上階層的かつ重畳的に存在する場合に上位の職位にある者は明確な指示等が必要であるとされた事例。
参照法条 労働安全衛生法30条1項2号
労働安全衛生法120条1号
労働安全衛生法122条
労働安全衛生規則636条
体系項目 労働安全衛生法 / 安全衛生管理体制 / 元方事業者・特定元方事業者
労働安全衛生法 / 危険健康障害防止 / 危険防止
労働安全衛生法 / 罰則 / 両罰規定
裁判年月日 1978年4月18日
裁判所名 広島高
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (う) 167 
裁判結果 棄却(上告)
出典 時報918号135頁
審級関係 一審/尾道簡/昭52. 6.23/昭和51年(ろ)52号
評釈論文
判決理由 〔労働安全衛生法-安全衛生管理体制-元方事業者・特定元方事業者〕
〔労働安全衛生法-罰則-両罰規定〕
 労働安全衛生法三〇条及びこれを受けて制定された労働安全衛生規則(とくに六三六条)の趣旨は、同一場所で特定元方事業者(建設業、造船業にかかる元方事業者)の労働者やいくつかの請負人の労働者が入り込んで作業している場合には、これら労働者間の連絡調整が不十分であったことなどから数多くの労働災害が発生しているため、特定元方事業者に安全管理の交通整理ともいうべき役割を積極的に行なわせることにより混在作業より生ずる各種労働災害から下請労働者をできる限り広範囲にかつ適切に保護しようとするものと解すべきであって、同法条にいう「同一の場所」の範囲も、仕事の関連性、労働者の作業の混在性及び統括安全衛生責任者の選任を定めた同法一五条の趣旨をも併せ考慮して目的論的見地から決定されるべきものであり、本件においては、その範囲は、前記六八二番船の船殻作業場全域を指すものと解するのが相当であって、これを所論のように本件事故発生現場である右六八二番船右舷ナンバー三ウイングタンク内に限定すべきものとは考えられない。それゆえこれと同旨の原判決は正当であって、所論のような違法は存しない。論旨は理由がない。〔労働安全衛生法-危険健康障害防止-危険防止〕
 そこで記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも参酌して検討するに、原判決挙示の各証拠を総合すれば、原判示事実は所論の点をも含めて優にこれを肯認することができ、当審における事実取調べの結果によっても右事実に誤りがあるとは認められない。右各証拠によれば、被告人Y1から本件足場作業施工の指示を受けたY2は被告人会社の組長であって、総合安全作業指揮者であるA現場長の補助者として、あるいは足場作業主任者として、また右Y2から本件足場作業施工の指示を受けた○○工業の従業員Bは足場作業主任者として、それぞれ所論指摘のとおりの義務を負っていたこと、被告人会社が昭和五一年一月から二月にかけて足場作業に関する講習会を開催し、足場作業主任者等を受講させテストを受けさせるなどして足場作業の際の危険防止策につき指導教育を行なっていたこと、被告人Y1は被告人会社船殻工作部外業課外業係長として、同課の安全管理者である課長を補佐する立場にあって、作業の実態を認識したうえ、作業間の連絡及び調整を行なうにつき必要な措置を講ずべき義務を負っていたこと、被告人Y1が前記Y2に本件足場作業の施工を指示した際、関係請負人に本件足場作業が施工される旨連絡しておらず、また右Y2にも本件足場作業場周辺に立入禁止など災害を防止するに必要な措置を講ずべきことは具体的に指示していないことが認められる。右のとおり被告人Y2は、被告人会社船殻工作部外業課外業係長として、同課の安全管理者である課長を補佐する立場にあって、作業間の連絡及び調整を行なうにつき必要な措置を講ずべき義務を負っているのであるから、たとえY2、Bに前記のように危険防止の措置を講ずべき義務があり、また同人らが被告人会社から足場作業の際の危険防止のための必要措置につき指導教育を受けていたとしても、足場作業における墜落事故が発生し易い状況にかんがみ、同被告人自身も、災害の防止を徹底するため、関係請負人に本件足場作業が施工される旨連絡し、また前記Y2に本件足場作業場周辺に立入禁止の措置を講ずるよう明確に指示するなど災害を防止するに必要な措置を講じなければならなかったものといわなければならない。それゆえ、同被告人が「前記各労働者の作業が同一の場所において行なわれることによって生ずる労働災害を防止するに必要な措置を講じないで作業させた」と認定した原判決は正当であって、所論のような事実誤認のかどは存しない。論旨は理由がない。