全 情 報

ID番号 10592
事件名 労働安全衛生法違反被告事件
いわゆる事件名 佐藤スレート建材事件
争点
事案概要  会社との間に雇用契約が存在せず、労働時間の拘束もなく、出来高払制による報酬を受けていた者が労働安全衛生法上の労働者に該当するか否かにつき、長期間会社の作業現場のみで働き、作業の遂行過程についても具体的な指揮監督を受けていたこと等により、右労働者に当たるとされた事例。; 労働安全衛生法一二二条の両罰規定につき、違法行為をした従業員に故意があれば足り、事業主の故意は必要ないとされた事例。
参照法条 労働安全衛生法2条2号
労働基準法9条
体系項目 労働安全衛生法 / 安全衛生管理体制 / 労働安全衛生法上の労働者
労働安全衛生法 / 罰則 / 両罰規定
裁判年月日 1981年8月11日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和56年 (う) 653 
裁判結果 棄却(確定)
出典 高裁刑集34巻3号374頁/時報1043号145頁/東高刑時報32巻8号43頁/タイムズ459号143頁/高刑速報56号230頁
審級関係 一審/佐倉簡/昭56. 2.18/昭和52年(ろ)52号
評釈論文
判決理由 〔労働安全衛生法-安全衛生管理体制-労働安全衛生法上の労働者〕
 以上認定した事実によれば、(1)、(イ)、被告会社とAとの間で、雇用契約ないし専属契約が結ばれていたとは認められないのみならず、Aらが現場で作業する場合、労働時間の拘束もなかつたといわなければならないが、しかし、Aは、被告会社が設立されたところから本件当時までの長い期間、継続して被告会社の作業現場でのみ働き、他の職場で働いたことは全くなく、そのため被告会社でも右Aを自社専属のスレート工として処遇して来たことが明らかであつて、被告会社では、Aを専属支配下におき、しかも、(ロ)、Aらに作業をさせる際、本件の場合を含め、作業現場毎に一括指示をしていたものの、その指示も一般的なものではなく、工事実行予算書に基づき、使用する資材の品名、寸法形状、数量、単価、工賃諸経費まで極めて詳細、かつ、具体的に指示する一方、その資材を自ら調達して提供し、作業の遂行についても具体的に指示するはもとより、危険防止についても相当程度注意を与えていたのであつて、Aらとしては、その指示に基づき、所与の仕事を完成させているに過ぎず、したがつて、Aが被告会社から独立した事業主体であるとは認められないし、事業計画、危険負担の点でもその主体であつたとは到底いえないうえ、作業の遂行にあたつても被告会社から具体的な指揮監督を受けていたことは明白であり、また、(2)出来高払制の報酬を受けていたが、その金額には危険防止に要する費用が含まれていないばかりか、その実質は労務の対償として支払われていたにすぎないと認定することができる。以上のような事実関係のもとにおいては、Aと被告会社との間には使用従属関係の実態が存したものといつて妨げなく、したがつて、Aを労働安全衛生法上の労働者と認めるのが相当である。右と同旨の認定をした原判決には事実誤認ないしは法令適用の誤りはないといわなければならない。〔労働安全衛生法-罰則-両罰規定〕
 控訴趣意中被告会社の代表者には故意がなかつたとの主張について
 所論は、要するに、被告会社代表者Bは、被告会社が有限会社Cから本件工事を請負い、これをAらに下請けさせたことを知らず、本件事故発生後、はじめて知つたものであり、したがつて、被告会社には事実の認識がなく、故意もなかつたというのである。
 そこで、検討するに、本件は、法人の代理人、使用人その他の従業員が、その法人の業務に関し、労働安全衛生法一一九条一号、二一条二項の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人に対しても、各本条の罰金刑を科す旨規定した同法一二二条の罪に関するものであり、このような両罰規定は、事業主の代理人、使用人その他の従業員の違反行為に対し、その事業主に行為者らの選任、監督その他の違反行為を防止するために必要な注意を尽くさなかつた過失を推定した規定であつて、事業主において右のような注意義務を尽くしたことの証明がない限り、事業主は刑事責任を免れ得ないのである(最高裁判所昭和三二年一一月二七日大法廷判決、刑集一一巻一二号三一一三頁、同裁判所昭和四〇年三月二六日第二小法廷判決、刑集一九巻二号八三頁各参照)から、違法行為をした従業員に故意があれば足り(本件では現場責任者であつた福島日出男に故意があつたことは関係各証拠で明らかである。)。事業主の故意を必要とするものではない。したがつて、被告会社の代表者Bが被告会社において本件工事を請負い、これをAらに下請させたことを知らなかつたというだけでは、労働安全衛生法一二二条の刑事責任を免れることはできないのであつて、弁護人の主張は採用することはできない。