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ID番号 90008
事件名 退職金請求控訴事件
いわゆる事件名 キョーイクソフト(退職金)事件
争点 内規によって退職金を支払ってきたことで、労使慣行が成立していたと言えるかが争われた事案
事案概要 (1) 教育関係資料の製作・販売等事業者Yは、従前より、退職餞別金内規に基づき退職金を支払っていたが、平成16年に勤続34年となるXが60歳で定年退職した際に、平成8年に新給与体系を導入した際に制定した退職金規程の新基準に基づき、Yには支払能力がなく、また、Xの貢献度も低かったとして退職金を支払わなかったところ、Xは、新基準を定めた際に、同年11月末日に退職した場合に算出される退職金額を下回ることはない旨明言があったとして、当該退職金の支払いを求め提訴した。
(2) 東京地裁は、内規に基づき退職金を支払うことは、雇用契約の内容となっていたとしてXの請求を認め、東京高裁も、平成8年11月30日まで、内規に定められた退職金が支払われることは、労使ともに認識しており、労使慣行が成立していたと認められ、退職金を支給する旨を定めた就業規則の内容を補充、具体化するものとして法的な効力があり、平成8年11月30日当時の退職金と遅延損害金を支払うよう命じた。  
参照法条 労働契約法
体系項目 賃金(民事)/退職金/退職金請求権および支給規程の解釈・計算
就業規則(民事)/就業規則の一方的不利益変更/退職金
裁判年月日 2006年7月19日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成18年(ネ)1958号 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働判例922号87頁
審級関係 第一審 東京地裁八王子支部/H18.3.10/平成17年(ワ)739号
評釈論文
判決理由 〔賃金(民事)/退職金/退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
〔就業規則(民事)/就業規則の一方的不利益変更/退職金〕
(中略)第3 
 2 Yの就業規則第39条は、退職金について、「従業員の退職は別に定める退職金規程(未定)により支給する。」と定めていること、Yは、退職金規程を作成していないが、退職金支給基準を定めた内規を作成し、昭和49年以降、これにより、退職する従業員に対し退職金を支給してきたこと、昭和57年以降平成8年11月末日までの退職金支給基準(以下「本件支給基準」という。)は、基本給に支給率(勤続期間10年以上の場合はストライキ期間を除く勤続年月)を乗じた金額に減額措置及び加給措置(いずれもXについては適用がない。)を行った上、餞別金(勤続10年以上の従業員は3万円)を付加した金額を支給額とするものであったこと、Yは、平成8年12月1日、「新給与体系」を導入するとともに、内規を変更したが、その際、貢献度に応じて退職金額を積み上げていく方式にするが、同年11月30日に退職した場合の退職金額を下回ることはない旨明言したこと、Xの平成8年11月30日当時の基本給は月額44万2500円、支給率は22.083であったことは、前記前提事実で説示したとおりである。
 上記のように、Yには、退職金規程は作成されていないが、退職金支給基準を内規で定め、少なくとも、昭和57年以降平成8年11月末日まで、従業員に対し、内規に定められた本件支給基準に従って退職金が支払われ、労使ともこの取扱いがされるものと認識されていたものと推認されるので、本件支給基準によって退職金が支給される旨の労使慣行が成立していたものと認められ、これは、退職金を支給する旨定めた就業規則の内容を補充、具体化するものとして、法的効力が認められるものというべきである。
 ところで、本件支給基準は、平成8年12月1日の「新給与体系」の導入に伴い変更されている(〈証拠略〉)が、この際、Yが、同年11月30日に退職した場合の退職金額を下回ることはない旨明言しているので、従業員もそのように認識しているものと推認され、さらに、法的効力が生じた退職金支給基準を使用者の都合で一方的に労働者に不利益に変更することは法律上問題があるといわざるを得ないのであって、上記変更以前から勤務する従業員の退職金については、平成8年11月30日に退職した場合に本件支給基準により算出される退職金額を基準として、これを下回らない額を支給すべきものというべきである。
 なお、「退職餞別金内規(平成8年4月1日現在)」には、「平成8年12月1日以降、退職餞別金については支払能力のあるかぎり下記条項に基づいて支給するものとする。」及び「全勤続期間の会社貢献度評価が著しく低いときは支給ゼロとなる場合がある。(平成13年2月1日から)」と各規定されている(〈証拠略〉)が、これらの規定の適用が労使慣行となっていた事実はうかがわれないので、これらの規定については、法的効力を認めることはできない。
 3 以上によれば、Xの退職金は、平成8年11月30日当時の基本給を基にして、本件支給基準により算定されることになるが、その額は、基本給44万2500円に支給率22・0(ママ)83を乗じ(千円未満切捨)、この額に3万円を付加した980万1000円となる。
 したがって、Yは、Xに対し、退職金980万1000円及びこれに対する支払期日後である平成17年4月18日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。
 4 よって、XのYに対する本訴請求は理由があり認容すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却する(中略)