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ID番号 90021
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 広島中央保健生協(C生協病院)事件
争点 妊娠を理由に軽易な業務へ転換させたことを契機として降格させたことが均等法9条3項の不利益取扱いに当たるか否かが争われた事案(破棄差戻し)
事案概要 (1) 複数の医療施設を経営する消費生活協同組合Yが運営するA病院の理学療法士Xは、妊娠したことから申し出た軽易な業務への転換が容れられたものの管理職である副主任を免ぜられ、育児休業を終了した後にも副主任に任ぜられなかった。このためXは、均等法で禁止された妊娠したことを理由とする不利益取扱いに当たるとして、管理職手当の支払い、損害を賠償するよう求めて提訴したもの。
(2) 広島地裁は、副主任を免じたのはXの同意を得た上で、Yの裁量権の範囲内で行われたものであるとしてXの請求を棄却し、広島高裁も同様に、請求を棄却した。しかし、最高裁は、軽易な業務に転換することによる有利な内容や程度が明らかでない一方、転換期間を経過した後も副主任に復帰することを予定していないことはXの意向に反するものであり、均等法9条3項に違反しない特段の事情があったとはいえず、その特段の事情の存否を判断しなかった原審は均等法9条3項の解釈適用を誤った違法があるとして、破棄・差戻しした。  
参照法条 男女雇用機会均等法9条
労働基準法65条
体系項目 労基法の基本原則(民事)/均等待遇
労働契約(民事)/人事権/降格
女性労働者(民事)/産前産後
裁判年月日 2014年10月23日
裁判所名 最高一小
裁判形式 判決
事件番号 平成24(受)2231 
裁判結果 原判決破棄、差戻し
出典 裁判所時報1614号1頁
労働判例1100号5頁
審級関係 控訴審 広島高裁/H24.07.19/平成24年(ネ)第165号
一審 広島地方裁判所/H24.02.23/平成22年(ワ)第2171号
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則(民事)-均等待遇〕
〔労働契約(民事)-人事権-降格〕
4 (1)ア 均等法9条3項の規定は、上記の目的及び基本的理念を実現するためにこれに反する事業主による措置を禁止する強行規定として設けられたものと解するのが相当であり、女性労働者につき、妊娠、出産、産前休業の請求、産前産後の休業又は軽易業務への転換等を理由として解雇その他不利益な取扱いをすることは、同項に違反するものとして違法であり、無効であるというべきである。
 イ (中略)当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度、上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして、当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして、上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは、同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である。(中略)
 また、上記特段の事情に関しては、上記の業務上の必要性の有無及びその内容や程度の評価に当たって、当該労働者の転換後の業務の性質や内容、転換後の職場の組織や業務態勢及び人員配置の状況、当該労働者の知識や経験等を勘案するとともに、上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって、上記措置に係る経緯や当該労働者の意向等をも勘案して、その存否を判断すべきものと解される。(中略)
 (2)ア これを本件についてみるに、(中略)、副主任を免ぜられたこと自体によって上告人における業務上の負担の軽減が図られたか否か及びその内容や程度は明らかではなく、上告人が軽易業務への転換及び本件措置により受けた有利な影響の内容や程度が明らかにされているということはできない。
  他方で、本件措置により、上告人は、その職位が勤続10年を経て就任した管理職である副主任から非管理職の職員に変更されるという処遇上の不利な影響を受けるとともに、管理職手当の支給を受けられなくなるなどの給与等に係る不利な影響も受けている。(中略)上告人は、被上告人からリハビリ科の科長等を通じて副主任を免ずる旨を伝えられた際に、育児休業からの職場復帰時に副主任に復帰することの可否等について説明を受けた形跡は記録上うかがわれず、さらに、職場復帰に関する希望聴取の際には職場復帰後も副主任に任ぜられないことを知らされ、これを不服として強く抗議し、その後に本訴の提起に至っているものである。(中略)
 上告人において、本件措置による影響につき事業主から適切な説明を受けて十分に理解した上でその諾否を決定し得たものとはいえず、上告人につき前記(1)イにいう自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するということはできないというべきである。
 (中略)本件措置については、被上告人における業務上の必要性の内容や程度、上告人における業務上の負担の軽減の内容や程度を基礎付ける事情の有無などの点が明らかにされない限り、前記(1)イにいう均等法9条3項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情の存在を認めることはできないものというべきである。したがって、これらの点について十分に審理し検討した上で上記特段の事情の存否について判断することなく、原審摘示の事情のみをもって直ちに本件措置が均等法9条3項の禁止する取扱いに当たらないと判断した原審の判断には、審理不尽の結果、法令の解釈適用を誤った違法がある。
 5 以上のとおり、原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、上記の点について更に審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すべきである。