全 情 報

ID番号 90022
事件名 退職金等請求本訴事件(7717号)、損害賠償請求反訴事件(23936号)
いわゆる事件名 日本リーバ事件
争点 労働者が懲戒解雇は無効であるとして、割増退職金の支払いを求めた事案に対し、会社側は、労働者が在籍中に事業の重大な秘密を漏洩しようとしたことが明らかであるとして,債務不履行(秘密保持義務違反)に基づく損害賠償金を求めた事案
事案概要 (1) 化粧品の製造販売等を営むY社は、そのコンシューマー・リサーチ・マネージャーXが、早期退職制度を利用して退職した後に、競業会社へ就職することを知ったことから、事業の重大な秘密を漏洩しようとしたことが明らかであるとして懲戒解雇とした。このためXは、懲戒解雇は無効であるとして早期退職割増退職金の支払いを求めて提訴したところ、Y社は、秘密保持義務違反による損害賠償請求を反訴したもの
(2) 東京地裁は、Y社が開発を検討していた商品のデータを同業他社へ漏洩したこと、同業他社への転職が内定した後で機密事項を扱う会議に出席し、そこで入手した資料を持ち出した事は、就業規則違反行為の背信性は極めて高いとし、懲戒解雇は権利の濫用には当たらないとし、Xの訴えを棄却し、Y社の損害賠償請求の一部を認めた。  
参照法条 民法1条
民法404条
民法415条
民法416条
労働契約法15条
労働基準法
体系項目 懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/情報漏洩
懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/服務規律違反
裁判年月日 2012年12月20日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年(ワ)7717号/平成13年(ワ)23936号 
裁判結果 棄却(7717号)、一部認容、一部棄却(23936号)
出典 労働判例845号44頁
労働経済判例速報1835号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 (中略)ア 化粧品等の輸入手続の照会について
 XがAやEの依頼を受けてしたFに対する化粧品等(泥パック製品)の輸入手続等の照会は,Yの組織,資源を利用して他人を利する行為であるといえなくはないが,Fに照会しEに伝えた事項は,主として法律上,行政上の事項であり,Yの秘密や保護に値する事項ではないから,これをもって,秘密保持義務違反があるということはできない。
 イ Yが開発を検討していた透明石鹸のサンプルの開発依頼について
 透明石鹸はYが開発を検討していた石鹸であり,成分,コスト,着色等の付加価値の有無,刺激性の強弱などは,Yの商品としての基本的な重要データであり,Yの事業の重大なる秘密であると認められる。
 Xは,これらのデータをE社から聞き出して,Aに伝えると共に,Aの指示どおりのサンプルを作らせて,これをAやEに送っているのであり,Aが日本R社に就職してからも行われていることからすると,Yに対する背信的な秘密漏洩行為であるといわざるを得ない。(中略)
 ウ ポート・サンライト会議の出席,同会議の資料の持ち出し,データの漏えいについて
 ポート・サンライト会議の議題は,日本市場の分析,Yの主力製品であるラックス・スーパーリッチのその後数年にわたる開発計画(プロジェクトは2つあった。)の協議・立案,並びにそれに適用されるべき数々の技術,アイデア(仮説を含む。)の評価・検討等が中心であり,当日配布された資料も,ユニリーバ社の研究所本部作成のものもあり,データにアクセスできる従業員も限られていたのであるから,高い機密性を有していたというべきである。(中略)そして,ポート・サンライト会議前にインターネット・リサーチによる市場調査に関する資料を会社から自分の個人のメールアドレスに転送したり,日本リーバの親会社であるユニリーバ社のイントラネットのパスワードを取得し,ユニリーバ社のサーバ内にあるデータにアクセスしたりしたこと,会議資料を返還していないこと,帰国後に会社のサーバ内の自らのプライベートフォルダに保存されている60通の電子メール全てを削除したことからすれば,Xは,当初よりYの機密情報を取得した状態で日本R社に就職しようとしていたものと認めるのが相当であるし,Aとのこれまでの接触状況に照らすと,Xは(資料を渡したかどうかはともかく),Yの重要な機密データ(ポート・サンライト会議の情報を含む。)を外部に漏えいしたと推認するのが相当である。(中略)
  したがって,本件懲戒解雇は,客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができないとはいえないから有効であり,長年の功労を否定し尽くすだけの著しく重大なものであるというのが相当である。
(中略)(1) 選択定年制度に基づく割増退職金制度にも,退職金規定8条の適用があると解するのが相当であるところ, YがXに退職金を支払わないのは正当であるから, Xの本訴請求には理由がない。
  (2) 以上の次第であり,Xの本訴請求は理由がないから棄却し,Yの反訴請求は損害賠償金140万8653円及びこれに対する債務不履行の後であり本反訴状が送達された日の翌日である平成13年11月10日から支払済みまで商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余の部分については理由がないから棄却することとする。